80.不名誉な二つ名(2)
「これがボスだ」
言い切ったジークムンドに気づいた北兵が「あいつ、剛腕のジークだぞ」と呟いた。どうやら立派な二つ名が他国にも知れ渡っているらしい。にやにやしながら見上げると、頭をグイっと敵側に戻された。なんだよ、照れてるのか?
「こんなんでもボスだ」
レイル、めちゃくちゃ失礼だからな。むっとして振り返ると、ひょいっと肩を竦める。隣のジャックに気づいた兵が声をあげた。
「あっちは雷神ジャックだ!」
「やだ、皆有名人だなぁ」
この場にいる3人が全部二つ名持ちだから、指揮官のオレがすごい奴だと思われちゃう。へらっと笑いながら余裕をかましたオレに「死神みたいだ」と失礼な発言が聞こえてきた。
どんな時でも飯は美味い。もぐもぐした口をハンカチで拭いて、ハンバーガーの外紙を燃やして捨てた。この世界は魔法が使えれば、燃やしてポイ捨て可能らしい。
見ると料理はいきわたっているようで、ほとんどの捕虜がカップに入れたスープを飲んでいた。
「今日はこのまま歩くんだけど、悪いがオレも道は知らない……何時間後に着くかわからない」
マラソンなんかもそうだが、終わりが見えていると頑張れる。だから本当は教えてやりたい。しかし地図を見ても距離を推し量れないオレに、初めての場所から帰るまでの時間はわからないのだ。本心から悪いと思いながら告げて立ち上がった。
「なあ、キヨ」
続きを促すように視線を向けたレイルが、考え込みながら耳の通信イヤーカフを弄っている。嫌な通信でも入ったのかと思えば違うらしい。
「そろそろ二つ名がつきそうだぞ」
あんまり厨二っぽくなければ、何でもいいです。というか、本音でマジ要らないです。
「聖獣使いとか?」
「「そのままだな」」
ジャックとジークに笑われて、ぷんと頬を膨らませた。大して離れていないテントの下に入ると、畳んだベッドや寝具が大量に積んである。無言で放り込んでいくと、途中からジャックやノアも手伝ってくれた。すべて放り込んだところで、通信が終わったレイルが近づいてくる。
『主殿、乗っていくか?』
なぜか足元の影からヒジリが飛び出してきた。意味不明の提案だが、楽なので頷いて……すぐに思い直す。オレが歩かないで乗っていくと、傭兵連中から見てどうよ。校内マラソンで足を挫いて教師の車で回収された子が、そのあと仲間外れにされた事件を思い出した。
これは村八分案件だ。危険は避けよう。せっかく仲間になった(んだよな?)連中に白い目で見られるのは嫌だった。
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