第16章 勝手に固められる足元

80.不名誉な二つ名(1)

 しょんぼりしながら、照り焼きソースもどきを塗ったくった。ヒジリやコウコ、ブラウの分を取り分け終えると、鍋をひとつ回収する。収納魔法で蓋のない汁物を持ち運べるかわからないので、ジャックとジークに運んでもらった。


「悪いな~」


「キヨはもっと部下を使え」


「そうだ、自分で動き回る指揮官ボスなんて滅多にいないぞ」


 ジャックもジークムンドも好き勝手に言ってくれるが、日本民族は基本的に貧乏性というか、動き回るのが標準のブラック企業体質民族なんですよ。と通じないのを承知でぼやいてみる。案の定通じなくて、苦笑いしたジークムンドに、髪を手荒に撫でられた。


「おはよう、皆さん。ご飯の時間です!!」


 先日と同じように鍋を手前において、自分たちで分けてもらう。王太子はまた部下へ先に渡そうとして、首を横に振られている。近くに座り込んだオレは、首を傾げた。


「なあ、王子様だっけ?」


「王太子だ」


「どっちでもいいや。えらい人が、なんで先に食べないの?」


「「「お前が言うな」」」


 あれ? 1人増えた! 振り返るとレイルが苦笑いしながら料理を運んできた。ハンバーガーは皿じゃなくて、紙に包んである。見事にハンバーガーの再来だ。


 某ハンバーガーショップに並んでそうだもん。悔しくなんてないぞ? そりゃ新しい料理を広めたら異世界の料理チートじゃん! と思ったなんて、欠片もないからな。誰だよ、オレより早くハンバーガー伝えた奴……拗ねながら、もらったハンバーガーを齧る。


「お前が先に食べないと、ノア達が食べられないってさ。情報屋を運搬係に使うなんぞ」


「……今の状況で最適な配役じゃん」


 勝利後の行進で情報屋が役に立つことなんて、他にないだろ。もぐもぐ食べながら答える。容赦ない拳が上から頭に叩きつけられた。じわっと目じりに涙が滲むのは、叩かれた瞬間に舌を噛んだからだ。


「くそっ…、噛んだぁ」


 飲み込んだあとぼやくと、機嫌を取るようにジャックがカップを差し出す。オレが作ったスポドリもどきが入っていた。やや温いそれに氷を作って放り込む。


「お前がボスなのか?」


「うん?」


 驚かれた理由が分からなくて声を上げた王太子を見つめる。よく見ると色男だ。しっかり日に焼けた逞しい体躯、黒髪で灰色の瞳……あれ? 体育会系の鍛えた外見だな……今までよく見てないから、目の色が薄いのは気づかなかった。

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