79.苦労したわりに評判がイマイチ(3)

 素朴な疑問に、野菜を炒めるジャックが考え込んだ。


「おれが知る料理人は犬と熊かな」


「そういや熊って多いよな」


 隣で目玉焼きを作る青年が頷く。どうやら熊と犬が主流らしい。忘れないように後でメモしなくちゃな。話しながらも手を止めずに調理を続けると、あっという間に傭兵達が集まってきた。寝ている間に強張った身体を解す運動をしてきた奴が多いらしく、周囲が男臭い。


 あれだ、言い換えると汗臭い。男子更衣室のあの酸っぱい系の臭いが漂う。混じるようにオカラハンバーグの匂いが流れて、鍋の周りにも人が集まっていた。


 味噌があれば味噌汁できたのに……と思うが、今朝のハンバーガーとは合わない。次に何かイラっとしたらミンチで肉団子作るのも検討しておこう。


「キヨ、これでいいのか?」


「えっと……こうして、次にこれ」


 ノアの前でひとつハンバーガーを作って見せる。パンの上に野菜炒め、ハンバーグ、目玉焼きの順で乗せるよう指示した。最後にまたパンを乗せるのだが、その前に照り焼き風味のソースを作らねばならない。


「手伝うぞ」


 欠伸しながらライアンが手伝いを申し出る。狙撃手として夜間の警備を担当することが多いので、自然と夜行性になりがちな彼は、まだぼんやりしていた。危険なので火から離れた仕事を頼む。


「これ、皿や器を並べて用意して」


 ノアが作ったハンバーガーのソースなしを皿に乗せるライアンが、ふと腰の銃に触れた。窺うように周囲を見回し、それでも手を離さない。


「うん? どうした、ライアン」


 尋ねるオレの後ろから、シフェルが顔をのぞかせた。どうやら気配を薄くして近づくシフェルに反応したらしい。ライアンが溜め息をついて銃を離した。みると、傭兵の半数ほどが武器に手を伸ばしていた。この部隊が一番優秀じゃん。


「何やらいい匂いがしますね」


「昨夜作ったハンバーグはさんで食べるんだ」


 羨ましいだろ~と滲ませた口調に、覗き込んだシフェルが意外な言葉を投げる。


「これは東の国の携帯食ですね」


「はい?」


「え? 知っていて作ったんでしょう?」


 互いにしばらく見つめあい、そろったタイミングで視線をハンバーガーへ向けた。この世界にはないと思い込んでたけど、東の国で普通に食べてるらしい。醤油や黒酢があるんだから可能性はゼロじゃないけどさ……料理チートラノベは敷居が高かった。

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