81.二つ名の登録方法(1)
ずるりと簀巻きから転がり出る。ヒジリの背中から落ちたオレは、手をついて一回転して膝をついた。縛り方が甘いぜ! そう指摘したら、次は腕ごと簀巻きにされそうなので無言で通す。
『主殿、大人しく乗っておられぬのか』
呆れたと言わんばかりの聖獣は、立派な黒い尻尾を左右に振って身を伏せる。あれは猫科の動物が飛びかかる前の動作だ。後ろに飛びすさって、ヒジリの突進を避けてガッツポーズしたところで捕まった。脇に手を差し込んだジークムンドが苦笑いしながら、オレを背負って歩き出す。
「いやいや、オレは自分で歩くからさ」
「ボスを置いて帰還するわけにいかないだろ。大事な雇い主様だ」
本当に、本当に癪なんだが……これが気持ちいいんだ。子供の頃に親に背負ってもらった記憶なんて薄れてるのにさ、それを思い出すんだよな。無条件で愛されてた頃の記憶みたいな感じがした。
「それにしても、本当に熱が高いな」
背中に伝わる熱を計ったジークムンドが呟くと、背負う役を取られたとぶつぶつ文句を言うジャックが溜め息をついた。
「戦いの後が多いかな」
「ふーん、魔力制御が甘いんじゃないか?」
薄氷色の瞳でオレを眺めていたレイルが口を挟む。
「よく魔力酔いしてたから可能性あるな」
普通に戦ってる時は、魔力を使ってないはずなんだが。気づくと魔力酔いに近い状態になってしまう。子供の身体に無理がかかるのか、最後は発熱というオチになるんだろう。
もう降りるのは諦めて、大人しくジークムンドの肩に掴まった。ヒジリ、恨めしそうな目でみるな。別にお前が嫌いで下りたわけじゃないぞ。
「ヒジリに乗せて」
ずっと睨んでくるヒジリの金瞳に勝てなくて、ジークムンドに提案する。
「ちゃんと乗るか?」
「勝手に下りるなよ」
すごく過保護にされてるが、ここは素直に頷いておく。黒豹の上に下されて、大きな背中に跨った。手で掴む場所はないが、ヒジリが魔力で支えてくれるので落ちる心配はない。すべすべする背中に頬ずりすると、ヒジリの機嫌が目に見えて上昇した。
人だったら鼻歌くらい歌ってそう。ご機嫌のヒジリに跨ったオレに、誰も「ずるい」と指摘しないのは不思議だが、ほとんど荷物が片付いた傭兵部隊は出発の準備を終えていた。
「正規兵が出発したぞ」
ジャックの指摘に頷くと、各自勝手に歩き出した。ここは傭兵らしいなと思う。きちんと整列して帰るなんて上品さはなかった。勝手に散開してるんだが、すぐ敵に対応できるよう武器は手放さない。狙撃手のライアンだって拳銃をベルトにさしていた。このぐらい用心深くないと傭兵は無理なのかも知れない。
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