81.二つ名の登録方法(2)

「ユハとか、新人さんは平気そう?」


 戦闘中に捕虜にされかけてたし、と気付いて名を口にすると後ろから「平気です」と自己申告があった。振り返った視線の先で、他の傭兵連中と歩いてくる姿は元気そうだ。


「早朝、飯の支度してる時は熱なかったが」


 鉄板を探して捕虜から鎧を奪おうと考えたオレの熱を測ったのは、サシャだった。ヒジリに乗ったオレの両側も後ろも、やたらと傭兵連中の密度が高い。守られている、いや心配されてる? もしかしたら構いたいだけかも。


 馬じゃないから騎乗と表現しちゃいけないのかも知れないが、乗り心地は意外といいヒジリの背を撫でながら、高い壁になった傭兵達を眺める。すごい飯の食い方からもわかるが、やっぱりガタイがいい。オレみたいにひょろりと細い奴は少なかった。いわゆるマッチョ集団だ。


「いいなぁ……筋肉」


 ヒジリの背中ももこもこと筋肉が動くのが伝わる。必要に迫られてついた筋肉は無駄がなくて綺麗だ。撫でるたびに、ヒジリの黒く長い尻尾が左右に大きく揺れた。


「筋肉ついたキヨが想像できない」


「「「確かに」」」


 口揃えて同意されてしまい、ちょっと唇を尖らせる。ぐらぐらする頭で、散漫になりがちな考えを纏めた。さっき、二つ名が決まったと聞いたが……登録したとか? 


 歩くヒジリの足元が、芝から土に変わった。大きな森が覆いかぶさるように日差しを遮り、地面は雑草がちらほら生えている。普段から人が手を入れて整備している森らしく、通路は男3人が横に並んで歩ける広さで砂利が敷かれていた。雑草防止だろうか。


「レイル~」


 名を呼ぶと、死角になる斜め後ろから赤髪が顔を覗かせる。情報屋で、普段は部隊について歩くような立場じゃないらしい。ジャック達に聞いた話を総合すると、各国に散らばった情報屋の総元締めで、傭兵ではない。オレのナイフ戦の教官に選ばれるくらい腕はいいが、あくまでも情報屋だった。


 今回も情報を配達にきたついでに、興味半分でついてきたらしい。


「ちょっと教えてよ」


「高くつくぞ」


「うーん。出世払いで」


「お前の出世払いは大盤振る舞いだが、しっかり出世しろよ?」


 お決まりのやり取りに、ジャック達は慣れてきたようだ。レイルが現場で情報料を徴収しないなんて珍しい事例でも、オレが相手と知ると誰も何も言わなくなった。陰でオレがレイルの愛人候補呼ばわりされているのも知ってるけど、冗談半分で聞き流してる。

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