09.自覚ゼロ(5)
「「「予算?」」」
一斉に同じ単語を繰り返したオレたちに、笑いすぎて涙を拭うレイルが続きを説明し始める。
「異世界人ってのは国の財産だ。その知識はもちろん、大抵は高い能力や魔力を持っているからな。今回のコイツは希少種の竜で、なおかつあの魔力量だ。間違いなく囲い込んで予算つけて、飼い殺しだ」
……飼い殺し。
えらく物騒な予想を立てたレイルは、短い赤毛をくしゃくしゃとかき乱した。意地悪い印象の笑みを浮かべているが、薄氷色の瞳は真剣だ。
「嫌なら、自分でさっさと決めちまえ」
彼なりの好意だろう。示し方がすこしへそ曲がりだが、根本的にお人好しなのだ。国に呼ばれて囲い込まれる前に、と忠告してくれるのだから。
己のチートに対して、あまりにも自覚が足りない子供へ最大の贈り物だ。
「レイルさん、言い方が問題です」
国寄りの立場なのか、シフェルは顔を顰めて注意する。
ジャック達は雇われた傭兵部隊で、シフェルと……おそらくクリスは国寄りの肩書きがある。レイルは情報を売買しているみたいだが、きっとフリーランスだ。
目の前に集まった男女の立場をきちんと分類し、自分の立ち位置を考えた。
自覚はないが、どうやら珍しい属性持ちのチート魔力らしい。願ったとおり外見は美人分類で、身体能力も恵まれた。過去のオレを考えれば、十分すぎるチートだ。
さらに今は12歳前後の子供なので、これからまだ成長の余地が残されている。
――オレ、物凄い優良物件じゃね!?
国が予算検討するほどの優良物件なら、囲い込まれるより自分で稼いだ方が……?
狸の皮算用だとしても、とりあえず国に囲い込まれる可能性を知っているだけで対策の立てようはある。じっと黙り込んで考えているオレに何を思ったのか、シフェルが溜め息を吐いた。
「予算は別としても、陛下への拝謁は避けられません」
これだけは決定していると言い切られてしまう。
助けを求めた視線の先でレイルがにやにや笑い、ジャックやサシャには目を伏せられた。ライアンは背中を向け、ノアはすでに読み終えた筈の報告書を再び読み出す始末。どうやら誰も助けてくれないようだ。
むぅ……唇を尖らせてむくれたフリで時間を稼ぎ、妙案を思いついた。
「じゃあ、保護者としてジャックかノアと一緒に行ってもらう」
「「え?」」
指名された2人の引きつった声に、満面の笑みを返す。逃がしてたまるか、絶対に道連れにする!! そんな意気込みを感じ取った彼らは、諦めの溜め息を吐いた。
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