09.自覚ゼロ(4)

「ちょ……っ! やばい!! おれ、こいつ好きかもよ!!」


 爆笑しながら好意を示されても、正直ノーサンキューだった。男に興味はない。隣で目を見開いてる金髪のお姉さんの告白なら、即OKだ。


「あらあら…。レイルが気に入るなんて珍しいわね」


「本当ですね、クリス」


 シフェルが笑顔で相槌を打つ言葉で、ようやく美人なお姉さんの名前が判明した。クリスさん……おそらく略称だろうから、本名はクリスティンとかクリスティアナあたりか?


「お姉さん、クリスっていうの?」


 外見を最大限に生かして、子供らしく尋ねる。あざとい仕草でこてりと首を横に倒せば、案の定、お姉さんは引っかかった。


「やーん、可愛いわ。この子、連れ帰りたい」


 シフェルの腕の中から伸ばされた手を素直に受けて、引き寄せられて抱き締められる。


 ああ……幸せだ。もうずっと12歳でもいい……。


 胸の谷間に顔を埋め、このまま窒息を望んでいると、いい笑顔のシフェルに引き剥がされた。じたばたと手足を暴れさせて抵抗するが、大人と子供の手足の長さは如何ともし難く――結局負ける。


「彼女はクリスティーンです、私の奥さんなので勝手に触らないでください」


 宣言された言葉に、聞き捨てならない単語が含まれていた。


 奥さん? 嫁? この金髪美人が、この性格悪そうなイケメンの!?


「嘘だ! オレがお姉さんと結婚するんだ!!」


「ハンサムになりそうだし、ちょっと出会うのが遅かったわね」


 にこにこ流すクリスがシフェルの言い分を否定しなかったことで、オレは激しいショックを受けていた。正直、この世界に落とされた時や人を撃った瞬間より辛い……。


 こんな美人、もう出会えないかも知れないのに。



「うぅ……」


 泣きまねをしてみる。


「その手は使えません」


 ぴしゃりとシフェルに切り捨てられ、ちっと舌打ちして顔を背けた。


 そうだ、さっきコイツ相手に使ったばっかりだっけ。


 すっかり忘れていた自分が、本当に子供になったような気がする。外見相応の扱いを受けているうちに、子供らしく振舞うことに違和感を覚えなくなっていた。




「軍は制服があるが……おれらは傭兵だからなぁ」


「少し小奇麗な格好させりゃいいんじゃないか?」


 ライアンとジャックが真剣に服について考えてくれる。とりあえずお金を持っていないので、彼らに任せるしかないだろう。


 さらさらと流れる髪先を指で弄っていると、シフェルが口を挟んだ。


「その心配はありません。拝謁に必要なものはもちろん、この子供には国から予算が下りますから」

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