41.傭兵だからこその戦い方(2)
「右が囮なら無視して左を攻めたらどうだ?」
「いや、先に囮を潰すべきだ」
「俺なら中央突破してから左に回りこむ」
口々に作戦を提示する傭兵達は、普段から自らの動きを勝手に決めてきた連中だ。当然だが好む作戦も、得意とする戦法も違う。間逆の意見が出るのも当然だった。
「ん? もしかして……向こうはオレ達が騎士団だと思って作戦を作ったのか?」
左に本隊を置き、右に囮を置く。中央でひらひら注意を引き付ければ、騎士は正規の手順に従って斥候を出すだろう。報告が来る前に右から攻撃されれば、右を向く。背後を左側の本隊が突く予定なら? 騎士は訓練されているから、行動が予測しやすいはずだった。
「うん、やっぱそうか。傭兵ばっかで助かったな」
彼らの作戦を覆した原因は、オレの部隊が傭兵ばかりで『兵法なんてクソ食らえ』の奴ばかりだったこと。笑いながら地図の右側の囮部隊を指差した。
「こっちは少数、すぐ潰せる。5人くらい志願してくれ」
8人ほどの敵が集まる場所を指差せば、ヒジリが鼻を押し付けてきた。撫でてやると、得意げに唸る。
『5人も要らぬ。我が片付けてやろう』
「よし、任せた。危なくなったら帰って来いよ」
自治領の森でオレを追いかけた身体能力を考えると問題ないが、喉を擽りながら声をかけると、ヒジリは驚いたように金色の目を見開いた。動きを止めたヒジリは器用に笑う。
『聖獣である我の身を心配したのは、主殿くらいよ』
プライドを傷つける発言かと思ったが、ヒジリは嬉しそうだった。確かに強いけど、心配しない理由にはならない。
『行ってくるぞ』
あっという間に走り去る黒豹は、木陰に溶け込むように消えた。見送ったオレは地図の左側を指差す。
「右をヒジリが片付けるから、左側だけ叩けばいい。中央の連中は無視しよう」
大した数じゃない数人の中央部隊は無視。左側をぐるりと囲むように指で位置を指示した。
「ここと、ここ。あとはこっちも……囲う形で回り込むぞ。後ろから追い込んでくれ。オレはここに残るから」
「「「はぁ?」」」
オレがいる場所に敵を集めてくれと言えば、傭兵は皆驚いた顔をした。強面のジークムンドが、確かめるように声を絞り出す。
「おれらは傭兵だぞ?」
「知ってるよ」
何を今更と首をかしげる。すると別の髭もじゃの男が口を開いた。
「ここに残るボスが一番危険なんだが」
「わかってる」
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