78.オカラはやがてハンバーグになる(2)
「寝たか?」
「ったく、心配の種が尽きない奴だ」
ジャックとレイルの声が聞こえる。他の傭兵はレイルに対して腫れ物に触るような扱いが多いけど、ジャックは昔馴染みらしく、親しそうに話は続けられた。
「なあ、キヨの言う『ひやっこ』だっけ? 調べられないか?」
「『ひややっこ』な。オレも聞いたことない食べ物だが、どこかに情報があるかも知れねぇな。調べてみるか」
「悪いが頼む。経費や報酬はおれが払う」
「うーん。報酬は当人から徴収するが、目の前に並べて驚く顔を見たら満足できそうな気もする」
「お前、丸くなったな~」
「雷神ジャックに言われるとはね。お前にそっくり返すよ」
なんだよ、泣けてきちゃうじゃん。いい奴らだよ、ホント。この世界に来て最初に出会った連中が当たりって、オレのクジ運は凄い引きだ。
夢だろうか、夢でもいい。これだけ大切に思わてたとしたら、オレの異世界生活も悪くないだろ。
「請求書は高額でふっかけてやるよ」
最後のレイルのセリフに、あれ? 夢じゃなくない? と思いながら、目を開いたら朝だった。
「ふわぁああ」
欠伸をしながら身を起こす。まだ周囲は寝ているので、明け方なんだろう。涼しいを通り越して寒いくらいの気温だった。ベッドから足を下すと、隙間風が冷たい。タオルケットを肩にかけたまま外へ出た。
テントの外で見張りをしていた数人が敬礼するのを、ひらひら手を振って通り過ぎる。少し離れた場所に兵士達が身を寄せ集めて眠るテントがあった。雑魚寝かよ、めちゃくちゃ待遇悪いな。
見渡す先は荒野が広がっている。テントがある後ろ側は森があるのに、きっちり線を引いたみたいに風景が別世界だった。地図上の線で天気が変わるのと関係があるんだろう。
乾燥した北の国にしてみたら、雨が多く豊かな中央の国は喉から手が出るほど欲しい土地だったはず。こういった水戦争は昔からある話だ。子供の頃に読んだ本を思い出しながら、視線を巡らせた。
「……ホント、待遇が違いすぎる」
兵士と騎士が同じ待遇なわけはない。森の内側に入った場所に騎士、森の外側に兵士、荒野と境目の芝に傭兵、一番外側の荒野に捕虜がいた。驚くほどはっきり階級で分けられている。
捕虜に至っては毛布を与えただけの野宿だった。この寒さでテントなしは辛すぎる。朝食は温かいものを用意してやろう。
天幕だけで壁がない調理用テントの下に入って気づいた。このテントを夜の間は捕虜に貸してやればよかったんだ。オカラで頭一杯になってる場合じゃなかった。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。思わず肩を落とすほど溜息を吐く。
「オレは指揮官向きじゃないなぁ」
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