46.真相は欲望の香り(3)

 言外に警護も請け負ったと匂わせる男の自信たっぷりな表情に、少しだけ力が抜ける。完全に信用は出来ないし、安心もできない。それでも……レイルが示してきた実力は本物だった。二つ名をもつ彼の組織は大きく、5カ国すべてに影響を及ぼす規模だと聞いている。


 ここは信じるしかなかった。


「丁度良かった。オレでも依頼ができるか?」


「……言ってみろ」


 受けてやると安請け合いしない態度に好感が持てる。見回した先で傭兵達は思い思いに休憩していた。ジャック達が心配そうにこちらを見ているが、話が聞こえない距離を保って休んでいる。その心遣いに乗っかって、話を切り出した。


「中央の国に他国に通じる裏切り者がいる。オレが西に飛ばされたとき、暗殺者が送り込まれた。最初の奴はまあまあ、次の奴はオレでもギリギリだ。最初の襲撃から僅か数時間で、次の暗殺者が来たが……おかしいと思わないか」


 ほう……と感嘆に似た声を上げたレイルが目を見開く。最初の暗殺者は魔力さえ使えれば退けられる。次の暗殺者は気配を感じるのもギリギリだった。最初の暗殺者を退けた状況を近くで知ることのできる仲間がいた可能性が高い。僅か数時間で、レベルを見極めて再襲撃するほどの組織だった。


「城内の予定が筒抜け、か」


「オレはそう思ってる。リアムのお茶会の場所は、一部の近衛しか知らなかった。参加者であるオレも直前まで『どの庭』か知らなかったんだぞ」


 以前にお茶をした西の庭ではなく、隣の薔薇園に変更されたのは用心のためだろう。それだけリアムの身は危険にさらされ、常に護られてきた。ならば、護る側に情報をもらす奴がいる。事前にどの庭か知っていたから、黒い魔獣と沼を送り込めた。


「探れるか?」


「高くつくぞ」


 試すように笑うレイルへ「オレの命とリアム以外なら払ってやるよ」と笑えば、気に入ったと肩を叩かれた。


「支払いは出世払いでいい。おまえに恩を売ると高額回収できそうだしな」


 そう告げると彼は立ち上がった。一緒に立ち上がれば、レイルの指が頬に触れた。拭う仕草に少し切れた傷の痛みに気付く。ピアスをひとつ弾いた時に破片が掠めたのだ。


「手当てして引き上げろ。シフェル達が城を落とした」


 呟いたレイルに尋ねようとした直後、城の方角からパンパンパンと音が3回続く。予定していた落城の合図だった。彼らは敵地に留まり西の国を制圧するが、オレ達は一度引き上げる予定だ。


「……情報屋って千里眼みたいだ」


 あまりのタイミングのよさに顔をしかめると、レイルは耳元の飾りを爪先で弾いた。以前にトランシーバーのような使い方をした耳飾だ。


「これが商売道具でね。転移するんだろ? 一緒に連れ帰ってもらおうかな」


「そうだな、帰るなら………あ、ヒジリ」


 八つ当たりで影に放り込んだ聖獣を思い出し、慌てて呼び出す。出てきたヒジリは地面を尻尾で叩き、不機嫌さを隠そうともしない。目を合わせない黒豹の首を掻いてやり、耳の間も丁寧になでて機嫌を取る。


「悪かったって」


『次はないぞ、主殿』


 拗ねたヒジリの背をなでながら、収納空間から絨毯を引っ張り出した。広げると魔法陣が白く光る。集まってきた傭兵を労いながら転送させ、最後にジャック達や聖獣と一緒に中央の国へ飛んだ。

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