18.裏切りか、策略か(10)

 中央の国の地図だから、当然中央の国が真ん中に描かれている。西の国の首都は下側の北の国寄りの中央方面だから……えっと、中央の国へ帰るには西の首都経由が近い。頭の中で整理した情報から、このまま首都近くまで運ばれてから逃げるのが楽だと気付いた。


「それにしても、綺麗な顔をしておる」


 顔を近づけられて、オレは身を反らして息を止めた。おっさん、息くさい。おじさんと丁寧に呼ぶ気力を奪うほど、マジ臭い。


「首都に献上するのでなければ……ぐひひっ」


 ぶひひっって聞こえた笑い声の意味は想像はしたくない。言わずもがな、オレもリアムも男だ。変態なのはおっさんの自由だが、あちこち触ったら殺す。絶対に息の根止める。


 強い決意を胸に、おっさんを睨み返した。


「その尊大な態度がいつまで続くか」


 言われた言葉で、リアムと勘違いされていたのを思い出す。そうか、予定通りリアムが攫われていたら、こうして臭いおっさんに顔を寄せられたのはリアムだったんだ。そんなの許さん。攫われたのは不覚と油断の結果だが、リアムを守ったと思えば悪くない。


 とりあえず勘違いさせたままの方がいいだろう。違うとバレたら殺されそうだし、変な趣味を持ってそうなおっさんに襲われるのも嫌だ。だけど、どうやったら皇帝陛下らしく見えるんだ?


 リアムらしく振舞う方法を考えながら、さりげなく顔を背けた。なぜこんなに生臭いのか、もしかして魚類か? あれ、属性に魚がいた気がする……まあ、おっさんが魚とは断定できないけど。


「言っておくが、西の国王は我輩ほど優しくないぞ」


 聞こえた単語がツボに嵌った。崩壊した腹筋を引き締める。ついでに、崩れそうな表情筋もぐっと力を入れた。ダメだ、崩壊する。よりによって、自分のこと『我輩』って言った! なにそれ、ゲームの中でくらいしか聞いたことないし。普通に使う奴がいたんだ。


 衝撃的過ぎる笑いのツボが全身を震わせた。ヤバイ、マジやばい。言葉が出てこないくらい笑える。そういや、前に二つ名を聞いたときも笑いを堪えたっけ――そんな思い出に意識を馳せて、ツボ過ぎた『我輩』を記憶から追い出す努力をした。どうしても我慢するとぷるぷる震える。


 恐ろしさで怯えていると勘違いした領主は満足げだった。ちなみにオレの筋肉は限界が近い。


「しっかり拘束しておけ、だが丁重にな」


 結局、オレは何も言わなかった。声を出してもバレないだろうが、下手な発言が命取りになる可能性がある。ここで似合うことわざは『沈黙は金』だと思う。


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