18.裏切りか、策略か(11)
連れてこられた屋敷は、テント村から近かった。
領主のおっさんが丁重にと命じてくれたおかげで、牢ではなく部屋に放り込まれた。ベッドと木製の小さなテーブルくらいしかない部屋は粗末な部類に入るだろう。装飾品や絵の一枚もない殺風景な部屋だった。狭い部屋は肌寒い。
最近は窓が割れたり壁が吹き飛んだ部屋で過ごしていたので、ぐるりと壁に囲まれて窓がちゃんとあるだけで嬉しい。隙間風があっても、壁が片面ない部屋より快適な筈だ。
……あれ、なんか可哀相じゃね? オレ。使用人レベルの小部屋で満足出来ちゃうって、哀れな気がする。環境に適応する能力が高いというか、高すぎて馴染み過ぎてたな。でも小部屋といっても6畳間くらいはある。
ちなみに部屋の大きさを示す畳は、当然ながらこの世界では通用しなかった。自動翻訳も役立ってくれなかった程だ。
「……着替えたい」
「だめだ」
そうだよね、そう言うよね。分かってたけど背中が冷たい。濡れたままの服じゃ風邪引く。この世界で身体能力高まったけど、毒も平気だったけど、たぶん風邪は別物だと思うわけで。頭痛や高熱に悩まされるのは御免だった。そこで粘ってみる。
「寒い」
ぼそっと文句をつける。じっと視線を固定して待つと、衛兵達が顔を見合わせた。丁重にと言われた手前、体調を崩されても困るだろう。きっと着替えをくれる。当然後ろ手の拘束も緩めるか、外される筈だ。
皇帝陛下という大層な肩書きを装うため、手の拘束を緩める間も動かない。とにかく偉そうに、何でも彼らにやらせるくらいの心持ちが大事だ。頭を下げて衛兵が動きやすくしてやる、なんて皇帝らしくない。
背を反らしたまま、姿勢よく待った。探った魔力から、大体の兵の配置を頭の中に描き出す。彼らの動きから、大まかな建物の形状を探った。これは、あれだ。中学校あたりの校舎の感じだな。北側に廊下が真っ直ぐに引かれ、南側へ部屋が並んでる形だ。
大きく見えるが荘厳さや豪華さは失われる。実用性は高いのかも知れない。逃げたり追いかけたり、移動するのに真っ直ぐな廊下は便利だろう。長方形の建物は建築も楽だし、使えない空間が出にくくて合理的だった。
大判のタオルを肩にかけられ、後ろ手の拘束を解かれる。ここですぐ逃げるような無駄はしない。このまま大人しくして、西の首都まで連れて行ってもらうのだ。それから逃げれば、すぐ中央の国との国境だった。
途中経路は楽をしつつ、策を練る時間に当てるのが正しい戦略だ。人前でも平然と着替えをしていたリアムには悪いが、タオルの陰でこそこそ着替えをする。兵も凝視しては申し訳ないと思ったのか、ちょっと顔を逸らしてくれた。
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