168.負けないけど、勝たなくていいよ(3)
全員が目を見開いた。食い入るように地図を見つめ、西出身の傭兵が声をあげる。ようやく問題点に気づく者が出てきて、騒ぎが広がった。ざわざわと故郷の特産品や名産物を口にする者が青ざめる。
「雨期が長すぎる。もっと乾燥してないと砂糖の木が腐るぞ」
「当たり! つまり、今の生活を続けるには5つの国が独立している必要があるってわけさ。そうじゃないと醤油も、黒酢も、砂糖も手に入らなくなる。農作物はすべて同じものだけ……調味料だけじゃなくて、食文化や生活様式も変わっちゃう……オレの言いたいことわかる?」
「キヨは料理好きだからな」
ノアが呆れ顔で「納得した」と呟いた。傭兵の中には「話が難しい」と唸る奴もいるけど、周囲があれこれ例えをだして説明し始める。これもある意味、オレの功績かも。以前は知らない奴に教えることはなかったし、例えで理解させる手法もなかった。
何かにつけてオレが「だから、○○だったらわかる?」とか「○○に置き換えたらわかるでしょ」と口癖のように繰り返したことで、教えられることも教えることも覚えたんだろう。
食べ物も生活様式も、その国ならではの気候に合わせて培われた歴史だ。それが国をひとつに統一すれば、すべて横並びで同じになる。平坦になって変化がなくなった世界は……いずれ自然消滅するだろう。
たとえば、洪水などの災害が起きたとする。その大量の雨はすべての国土に降り注ぎ、同じように押し流すはずだ。これが複数の国が分かたれていれば防げた。北の国で洪水を呼ぶほどの大雨が降っても、中央の国の天候は晴れかも知れない。逆もあり得た。日照りの中で農作物が枯れても、隣国は豊作の可能性があるのだ。
「言いたいことはわかった」
ノアが頷いた。ジャックとライアンは何やら話し合っていて、見渡した食堂内の傭兵は仲のいい奴と話に夢中だ。どうやら出身地の特産物で、天候に左右されやすい物の名前が飛び交っているらしい。
「はいっ! 注目!!」
これな、小学校の頃の校長先生がよく使ってた掛け声。一度使ってみたかった。異世界で使う羽目になると思わなかったが、ある意味願いが叶ったのかな。さっと雑談の音が引いて、彼らはこっちを向いた。想像より気分がいいぞ、これ。
「とにかく、オレにとって
うーん、校長先生の掛け声は汎用性が高い。前世界では日常で必要ないが、この世界だと十分通用することに感心しながら椅子の上から飛び降りた。
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