168.負けないけど、勝たなくていいよ(2)
「はいはい。静かにして、説明するから!」
予想通り、静まった部屋の行儀良さに口元が緩んだ。ヤバい強面や、傭兵でも名の知れた連中が集まってるってのに、オレの一言で静まるのってシュールだよな。外から見てたら奇妙だと思う。鶴ならぬ、ガキの一声だもん。
「中央の国の大きさを知ってるだろ? これ以上領地を広げても管理できないんだ。でも東や南はこちらへ攻めてくる。だったら撃退しないとね」
「キヨ」
手を挙げたサシャに「どうぞ」と促すと、彼は当たり前の疑問を口にした。
「だったら勝って支配下に置けばいい。西みたいに属国にすれば、それぞれの王族を管理人にできるぞ」
やはりそうきたか。それはね、オレだって一瞬考えたけど、気づいちゃったんだよな〜。
「西を属国にして何が起きたか知ってる? あの国に関しては王族をほとんど処罰したよね。だから留学してた王女1人を残して王家が滅んだ。聖獣に聞いた話だと、大地と王家の間には盟約があるそうだ」
傭兵にとって興味がなく、誰も教えてくれなかった話だろう。きょとんとした顔で「盟約?」と呟く声がいくつか聞こえた。
「うん、盟約――傭兵の雇用契約だと思えばわかる? 破っちゃいけない大事な約束事があるわけ。それが一族が滅びたら誰も守る人がいなくなって、契約破棄になる」
「仕事を依頼した傭兵が全滅するのと同じか」
ジャックがぼそっと不吉な例えをする。注意しようと思ったが、それよりも理解する傭兵が多いことに溜め息をついた。自分たちに置き換えて理解するのはいいことだけど、例えていいものと悪いものは後日教えておこう。
「契約破棄の後、当然だけど土地は新しい所有者を選ばなければならない。今回、西の国は一時的に属国になっただろ? そうすると……こうなるわけ」
戦場で使った大きな地図を広げて見せた。後ろの連中にもちゃんと見えるよう、空中に拡大して投影する。
「ボスの魔法は器用だな」
「ありがとう、ジーク。さて気づいたことは?」
学校の先生みたいに尋ねると、ユハが反応した。
「天候だ! 天気が同じになる」
「国境がない」
「だったら何が問題だ?」
ユハに続いたのはヴィリ。最後の疑問はノアだった。彼らにとって国境の位置が変わろうと、天気が同じになろうと大した差はないだろう。地図さえあれば確認できる程度のことだ。
「西で作られていた砂糖が取れなくなるよ」
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