246.機嫌取りなら唐揚げだろ(3)

「うう、痛い。レイルの虐待野郎」


「本当に虐待してやろうか?」


「ごめんなさい、レイルお兄ちゃん」


 速攻で謝った。意志が弱いとか言うなよ。これが元引きこもりの実力だ。危なくなったら引くのが大事なんだよ。引き際を誤ると大惨事に発展するからな。フラグじゃないぞ。


 この世界だと菜箸がないんだよな。探せばあるのかもしれないが、ひとまずお玉を取り出す。これだと油ごと掬ってしまうので、マロンの出番だ!


「マロン、おいで。仕事だよ」


『ご主人様、僕が役に立ちますか』


 少年姿だが、後ろに犬の尻尾の幻影が見える。とことこ近づいたマロンへお玉を差し出した。


「これに小さな穴をいっぱい開けて欲しい。金属加工が得意なマロンだから頼むんだぞ」


 他の奴には任せられない。そう匂わせると、大喜びで穴を開け始めた。爪の先で……そう、爪でぐさっと刺すと穴が空く。おかしくね? 


 ぐるぐると動かし、器用に丸い穴をたくさん開けてもらった。出来上がった作品に文句はない。いわゆる穴開きお玉だ。素人にも使い勝手がいい道具が一番だった。


『僕も手伝いたいです』


「聖獣だし、いけるか」


 足元に土魔法で踏み台を作ってやり、穴空きお玉片手のマロンに手本を見せる。浮いている肉を掬って、油が切れたら皿に乗せた。簡単な作業だ。


「裏が白っぽいのは、まだだからくるんと回す」


 熱心にメモを取るベルナルドをよそに、オレは丁寧に説明した。大きく頷いたマロンに任せ、オレは肉を入れる役に徹する。いい匂いが漂う教会っぽい建造物の庭は、あっという間に人集りができた。気のせいかな、外部の人が入ってきてないか?


 バーベキューすると、いつの間にか合計人数が増えてるアレだろ? 心霊現象。全員で「誰かの知り合いだろう」と思ってるけど、実際は誰も知らない奴が紛れてる都市伝説だ。


 大量の唐揚げが複数の皿に盛られ、周囲をサラダで飾った。見た目は豪華だ。問題は味だが……実は上から黒酢で作ったドレッシングをかけた。胃がすっきりして食べやすいと思うんだよ。


「いただきます」


「「「いただきます」」」


「「「ます」」」


 一部聞き取れなかった連中が、誤魔化してたがまあいいか。唐揚げは恐ろしく好評で、足りなくなって途中で追加するハメになった。オレが揚げながら食べる横で、聖獣達も勢いよくがっつく。食べやすくするのも問題だな。普段の倍の肉が消費されていった。

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