135.毒はほんのり甘口で(3)
「キ、キヨ……もしかして」
「いや、まだ生きてるぞ。解毒したが、まだ回復してないだけだ」
けろりと舌先三寸で嘘を吹き込まれ、シンが青ざめたまま歩き回る。檻の中をぐるぐる歩く猛獣じみた迫力ある美貌の兄は、ぶつぶつと物騒な言葉を吐き始めた。
「キヨを狙うとは……絶対に許さん。殺す、いや、簡単に死なせんぞ。じっくり甚振って懇願するまで痛めつけて、泣き叫ぶ喉を切り裂いて……いや、磔にして殺す手も……見せしめは必要だ。だが……あまり本性を見せると、嫌われるかも……。そんな……弟に逃げられるなら、閉じ込めて! そうだ、閉じ込めればいいのか!?」
「落ち着け」
レイルがヤンデレ兄のセリフを止めた。やばい、マジに監禁されそうなんですけど? 恐怖で肌が粟立って、震えが酷い。ぶるぶる子猫みたいに震えるオレの髪に、シンの手が触れた。優しいんだけど、緊張や怒りからか冷たい指が、頬や顳を撫でる。
「キヨ、キヨ……助かるのだろうな、レイル」
「助けるさ」
「失敗したらお前の命もない」
血の繋がった従兄弟に対し、先日出来たばかりの弟を優先しないで欲しい。震えが酷くなるオレの様子は、よほど重症に見えただろう。実際、ある意味ハートブレイクだった。北の国の王族を選んで喜んでた少し前のオレ、今のオレに全力で謝りやがれ。
優しそうでちょろい兄だと思ったら、監禁系ヤンデレ野郎じゃねえか――怖い。
「こんなに震えて可哀想に。苦しいのなら代わってやりたい」
それは王太子として弟王子(意訳)に対して使う言葉じゃないと思う。2カ月前は存在すら知らない赤の他人だったからな? 落ち着け、シン。
心の中でぐちゃぐちゃ呟くオレの顔色は、恐怖で青ざめていく。異世界物で読んだ監禁系ヤンデレが脳裏を過った。手足切られたり、首輪つけられたりしない……??
「医者が来ました」
「おや、毒を飲んだのはキヨヒト殿でしたか」
医者を呼んだらシフェルが付いてきた。まあ騎士団長だから、城内で他国王族が毒飲まされたら駆け付けるのが仕事だろう。でも今はリアムの警護が最優先のハズ! 文句を言って追い返そうとしたら、レイルにぐっと体重をかけて押し戻された。
起き上がれずに薄く目を開くと、黒い笑みを浮かべた赤毛の悪魔が2匹いた……。視線をそらした先で、緑の目の鬼も微笑む。
「診察させていただきますね」
なぜか医者役を兼ねているらしいシフェルの手が首筋に触れる。そのまま編んだ髪を避けて額に手が置かれた。後ろで扉の締まる音がする。何やらシンが命じたらしく、部屋から人の気配が消えた。
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