135.毒はほんのり甘口で(2)

 口の中を舌で辿って、やっぱり甘いとベロを出す。甘いのは好きだが、この……子供の風邪シロップみたいな甘さはべたべたで苦手だ。そんなオレの仕草に、シンがあたふたしながら水を持ってきた。


「の、飲めるか?! いや、それより吐かせた方が……キヨ、どうしよう……私の弟がっ!」


「落ち着け、シン。まずは人を呼んで来い」


 レイルが淡々とした冷たい声で放った言葉に、慌ててシンが外へ飛び出した。広い控室のドアを開き、廊下で警護する衛兵に身振り手振りで伝えている。焦り過ぎて、相手が理解しづらい状況なのは見て取れた。お陰で意図せぬ時間稼ぎをしてくれている。


 慌てふためく兄を尻目に、従兄弟と毒の判定を始めた。


「そんで? 毒は何だった?」


「この甘さと匂いは……蛇毒だろ。あの赤と黒の毒々しいやつ」


 すでに服毒の授業は終えている。ちゃんと単位も取ってるぞ……なんて茶化しながら、ヒジリを手招きした。心得た黒豹がべろりと顔を舐める。そのままのしかかって、獣臭いベロチューをかまされた。まあ今回は誘い受けた状態なので、生臭いのは我慢だ。


「うっ、ありがと……ヒジリ……でも今度口臭消し作ろう」


『主殿は迂闊よな。我が居るからよいものの、もし我と契約しなかったら、いかがする気だ』


「いや、ヒジリがいるから安心して飲めるんじゃん」


 ぴんと尻尾と耳が立つ。喜びの感情を露わに尻尾を振りながら、首や頬についた唾液を舐め取る黒豹はご機嫌である。猫ってキス嫌いなはずだけど、なぜかヒジリは平気らしい。もしかして毛繕い感覚か?


 残ったお茶を指先で味見したレイルが「げぇ」と渋い顔をした。


「この濃度だと殺す気だな」


 大量に入っていると指摘され、収納からアイスクリームの木べらに似た金属を取り出す。色の違う金属で作られた大量のヘラは、キーリングのように輪に通していた。その中から銅の赤い板を選んで突っ込む。3秒数えて取り出すと、真っ黒に変色した。


「本当に致死量だ」


 疑うわけじゃないが、きちんと証拠品を作っておく。ついでに残ったお茶をポットごと回収した。念のため、シンやレイルのカップやポットの中身も確かめたが、同様に一瞬で変色する。


 証拠品を纏めて収納へ放り込んだオレの肩を、レイルがぽんと叩いた。顔を上げると、にやりと悪い笑みを浮かべた友人が、短い赤毛を弄りながら高そうなソファにオレを突き飛ばす。ごろんと転がったオレの上に、容赦なくカップの残りが掛けられた。


「服が汚れるだろ!」


「しぃ……苦しんだフリしておけ」


「え? 通用しないんじゃない」


 オレが聖獣の主なのは誰もが知る情報だ。なのに毒殺未遂の被害者ぶるのは無理があるだろう。


「任せろって」


 なかなか様になるウィンクを寄こしたレイルは、ソファで丸くなったオレの髪を優しく撫で始めた。

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