第24章 さあ、演劇会を始めようか

146.秘密をまたひとつ(1)

 宗教がない、神話もない。崇める対象は聖獣しかいない世界で、その聖獣に嫌われるのは貴族として致命的だった。なのに口撃したのは、聖獣を4匹も従える子供が羨ましかったのかな? ちょっと揶揄って面目をつぶして上位に立ちたかった? その程度の嫌がらせで、オレにちょっかいだしたなら……詫びる程度じゃ済まさない。


 オレの聖獣たちは誇り高いんでね。


「聖獣にとって主が大切だと知りながら、その主が害される姿をあんたは楽しんだ。聖獣を敵に回したいなんて変わり者だな。いや、事前に知ってるなんておかしいじゃないか。あんたがってこと?」


「私は……そ、そんなつもりは」


「へえ、『皇族』も『王族』も『聖獣』まで格下扱いだし、大したもんだ。さぞご立派な家名なんだろう。それで? いい加減に名乗ったらどうだ」


 この場で再び名乗るよう告げる。子供の口調から少しだけ公式の話し方へ変更する。これで従わなければ、次は王族としての叱責しかないけど? そろそろ尻尾をまいて逃げた方が賢いんじゃないか。周りはあんたの名前を知ってるから、もう手遅れだけどね。


 ここで家の名を出したら、貴族として破滅だ。しかしここまで煽られて逃げかえるような可愛い性格もしてないだろ。家名を名乗ったら、聖獣、皇族、王族を敵に回すのは確実だった。今までおべっかを使ってきた貴族や商人も離れていく。


 一手ずつ相手を追い詰めるのは、ざまぁ系の王道だぞ。ブラウはリアルざまぁを楽しみながら、ゆらゆらと尻尾を振る。もふもふの毛が見事な青猫は、あれだ。お金持ちの奥様が抱っこする高級洋猫ペルシャのように、オレの権威を増長させた。


 虎の威を借る狐? 権力者の寵愛を笠にきてる? 結構じゃないか。その評価を覆すのは口先ではなく行動をもって行う。だから今は好きに言わせてやればいい。その権力者や虎の威を借りる事もできない輩の文句なんざ、馬耳東風でスルーしてやるよ。侮ってくれる相手の方が陥れやすいしね。


「毒を盛ったのは何回目か? 控室のお茶に赤黒蛇の毒、乾杯のグラスは百合系の毒、そしてサソリ毒。なにを驚いている? 毒殺の危険に備えて味や症状くらい覚えておくものさ。もちろん北の王族シュタインフェルトであり、中央の皇族分家エミリアスのオレが知らないわけはない」


 にわか王族と嘲笑されようが、王族が必要とする知識のほとんどは頭に詰め込んである。必死に勉強させられた当初は意味が分からなかった授業も、宮廷という現場に出て必要性がわかった。


 しつこく直された発音や言葉遣いも、わずかな隙を突かれないよう指導された仕草や歩き方。戦場に出る前と、帰った後に必死で吸収した知識は、命がけで脳にた。渋るリアムを説得して、文字通り魔法陣で付け焼刃した知識は武器になる。

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