277.急いでくれ、金なら払う!(2)

「お願い、リアム。この丈のスカート姿が見たい」


 自分勝手な好みを土下座で押し切る。困惑顔の彼女を承知で必死にお願いするオレの姿に、じいやが目頭を押さえる。情けなくなんかないぞ。これは戦略だ。


「わかった……それでいい」


 この時点でドレスの形が決まった。お礼を言いながら彼女の手を握る……前にじいやが差し出した布巾で手を拭く。それから握ってその手の甲に唇を押し当てた。


「……っ、愛されてますね。陛下」


 双子のお姉さんの方が感涙した。服の上から測ってたけど、当然女性だと気づいていたらしい。少女なのに性別を隠して生きるなんて、と同情していたらオレの出現だ。世話役のシフェル達にも、女性との情報は解禁になったと聞いた。その状況で、オレの暴走ぶりに感動したらしい。


「色は桜色がいいな。北の国へ行くけど、リアムらしくが大事だからね。黒髪とピンクって最高じゃん」


「わかりますぅ!!」


「同意します」


 双子がきらきらと目を輝かせた。自分達の間で通じる趣味を共有できる仲間を見つけた時、人はこんなにも輝くのだ。あっという間に顔を突き合わせて、色の濃淡に唸り始める。オレとしては薄いピンクを想像したが、彼らはもう少しローズ寄りだった。そこを強引に淡い色で押し通し、逆に生地を譲る。


 清楚な印象が大事だし、綿がいいと思う。そう告げたオレに、相手が絹着てるのに負けるわよ! とお姉さんに叱られた。挙句、最高級だという生地を見せてもらう。


 ぎらぎらした感じの艶じゃなく、すごく品がいい。あれだ、着物の生地みたいな……侘び寂び系の手触り。縮緬とも違う不思議な感じで、リアムも気に入ったらしい。幸いにして在庫があるそうなので、じいやと女中さんが夕方に回収しに向かうことになった。双子は大慌てで型紙起こしをする。


 もちろん彼らにも奮発したさ、金貨を。こういう時でもないと、リアムに大きく使ってあげられない。それに男として彼女の装いに協力金を出せるのは、すごく名誉なことだぞ。力説したら、リアムも折れてくれた。全部自費で支払う気だったみたいだ。


 共布のリボンも用意してもらおう。簪などの飾り物が侍女によって運び込まれ、あれこれと迷いながらリアムと選ぶ。なんだこの楽しさ。世の男性は「女性の買い物は長くて疲れる」っていうけど、一緒に選ぶ楽しさを放棄してるんじゃね? オレはリアムだったら一日中でも付き合えるぜ。


 わずかに色が違うネックレスで迷うリアムに、両方を肌に乗せてみるようアドバイスした。腕に乗せた感じから、左側の淡い色の方を選ぶ。順調に選び終えたところで、じいやがさり気なく時計を示す。ああ、もう夕暮れ時か。楽しい時間ってすぐに過ぎるんだな。

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