273.お姫様にジョブチェンジ(3)

「私としてはお前が跡取りであってくれたら……いや、跡を取らなくてもいいから」


「おかしなこと言い出さないで」


 このブラコンはどうしたものか。突発性で発症した義兄の言動に、オレはぴしゃりとノーを言い渡す。


「そう冷たくするな。シンはお前が成人して結婚するまで、一緒に北の国で暮らせると思ってたんだから。可哀想だろうが」


 レイルが取りなすように間に入った。オレとしては寝耳に水の計画だが、確かに一般的な常識だと結婚するまで実家にいるものだ。ずっと中央の国にいたから、考えもしなかった。だが北の国の第二王子という立場で考えれば、中央の国に婿入りするまでは北の王族なのだ。一緒に暮らせると考えたのも仕方ない。


「ごめん、シン」


「……兄様と呼べ」


 ぷっと噴き出した。そこは譲らないんだな、ブレない人だ。


「シン兄様、オレが婿に行っても兄弟でしょ?」


「あ、ああ! もちろんだ、何かあれば頼れ!!」


 興奮した様子で肯定するシンの様子に、リアムがぺこりと頭を下げた。


「セイのお兄様なら、私のお兄様ですね」


 女性らしい言葉遣いでそう呟き、これからよろしくお願いしますと笑った。目を見開いて驚いた顔をした後、シンは優しく微笑み返す。


「可愛い妹が増えて嬉しい限りだ」


 公式な場ではないので、皇帝と王太子ではない。未来の兄妹の関係で言葉を交わした。なんだか擽ったい。日本では結婚どころか恋人すらなくて、親に紹介とかなかったし……ん?


 オレ、北の王家に顔を出してない?!


「大変だ! 北の王家に顔出ししてないぞ!」


「「「「あ」」」」


 みんな忘れてたのか。そうだよな、何となくそのうちって言ってたけど、一度も顔出ししてない。これはまずいぞ。でも今は離れられない。だけど国王の義父を呼びつけるのはない。


「うーん、どこでもドアが欲しい」


『ピンクの扉じゃないけど、転移すればいいじゃん』


 けろっと青猫に言われて首をかしげた。魔法で転移か? だけど行ったことある場所しか無理だぞ。


『主殿はときどき抜けておる。聖獣に乗って帰り、ここへ転移で戻ればよい』


 ぽんと手を叩く。


「そっか。それでいこう!」


「私も一緒に行く」


「「「え?」」」


 リアムが同行に手を挙げたことで、一斉に疑問の声が上がる。これは大移動になりそうな予感がした。






************************

 新作『虚』をUPし始めました。

 復讐に憑りつかれた主人公の青年は、異世界に召喚された元日本人。必死に戦い魔王を倒した彼に待っていたのは、この世界からの拒絶と仲間の裏切りだった。

 突然現れて手を差し伸べた美女リリィの過去と正体を知る日まで、青年は足掻き続ける……ダークで残虐描写多めのお話です。

 意外と明るい主人公ですので、ぜひご賞味ください(*´艸`*)

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