273.お姫様にジョブチェンジ(2)

「そろそろ落ち着きましたか?」


 シフェルが無粋な質問をして、場の転換を図る。それに乗る形で、オレとリアムは体を離した。でも手を繋いでしまったのは許して欲しい。指を絡めた恋人繋ぎだ。いそいそとソファまで連れて行き、彼女を先に座らせる。今までドレスで過ごしてなかったのが嘘のように、裾を上手に捌いて腰掛けた。隣にそっと座る。


 なんかいい匂いがする。我慢していたドレス、化粧、香水……どれもリアムを魅力的に見せた。本当にオレの婚約者でいいんだろうか。カミサマに顔面偏差値は上げてもらったが、中身は元引きこもりだぞ。どうしよう、リアムが他の男に目移りしたら困る。


「……何をしてるの?」


 きょとんとしたリアムの声に、オレは真剣に答えた。


「リアムがよそに目移りしないようにしてる」


 繋いでない方の手で、リアムの目元を覆った。だが化粧が崩れるといけないので、直接肌には触れない位置。絶妙に計算された距離感で、リアムの視界を塞ぐ。


「キヨヒト様、冷静になってください」


 じいやに諭され、仕方なく手を外した。でも繋いだ手は離さない。その執着ぶりに呆れ返ったシフェルが溜め息を吐いた。


「少しの間、冷静になるまで陛下と会わない方が」


「「嫌だ」」


 リアムと息ぴったりのタイミングだった。完璧にシンクロした2人の声に、シフェルがさらに項垂れる。それから指折りながら、注意事項を言い渡された。


「2人きりにならない、必ず侍女や執事を伴ってください。それから手を握る以上の行為は禁止です、頬にキスが限界ですからね。後は……とにかく揚げ足取られないように行動すること」


 まだ貴族達の粛清が終わっていないのだ。この状況で騒動を起こされたらフォローしきれない。そういう事だろう。


「キヨ、先程の玉はやはり返してもらおう」


 シンが泣きそうな顔でそう告げる。あれは跡取りに渡す玉だと聞いた。シンから借りたのは、立場を強くするためだ。父王が間も無く退位する意向を示したため、まだ息子のいないシンの王太子は弟である第二王子へ移る。つまりオレだ。義理であろうが、他に王子がいない状況なら当然と言えた。だから借りたのだが……今になって返せというのは何故か。


「キヨ、お前は皇帝陛下の婚約者で、北の王家を継がない。なら不要だろ」


 肩を竦めるレイルの言葉で、やっと理解した。オレは絶対に北の王にならない。だからこの玉は、別の王子に受け継がれるべきだった。それがシンの息子になるか、まだ見ぬ義姉の子か分からないけど。素直に取り出してシンに差し出す。


「ありがとう、シン兄様」

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