22.増えた仲間たちの確執(6)

 なんだろう、すごく哀れまれている。しかもヒジリとセットで……。


「ヒジリもハム食べるか?」


『……ふむ』


 匂ってからぺろりと平らげ、黒く長い尻尾を左右に大きく振る。どうやら気に入ったらしい。もらったハムをさらに2枚与えて、自分も手早く朝食を終えた。もちろん、皿の上にはサラダの葉1枚残していない。舐めたようにきれいな皿に満足して「ごちそうさま」と呟いた。


「朝の訓練はなし。午前中の戦略講義もなし。リアムに使役獣について教えてもらうか」


 いつもなら午後から担当してくれるリアムだが、午前中の講義担当であるシフェルが会議をしているなら、すっ飛ばしても構わないだろう。皇帝は暇な仕事だと言っていたから、きっと構ってくれるはずだ。使役獣の話もだが、魔法についてもいくつか質問があった。


 かつて勉強していた頃の経験だが、「質問する質問がわからない」という状況に陥ったことがある。教師と生徒の間に大きな格差があると起きるらしいが、教師は「生徒が何を理解できていないかわからない」状況で質問がないか尋ねる。ところが生徒は「全部分からないから、どう尋ねたらいいかわからない」のだ。


 少し前までその状態だった。何しろこの世界の住人にとって「常識」で「日常」だから説明しなかった部分が、オレには「疑問」だったりする。当たり前すぎて説明を省かれたため、後日首を傾げる事態が多発してしまう。


 気付いたときに尋ねておいた方がいい。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥らしいからな。……合ってるよな? まあ、間違ってても前世界のことわざを訂正できる奴はいないが。


『リアムとは誰か』


 無意識に撫でていた黒い毛皮に尋ねられ、視線を向ける。金色の瞳は瞳孔が大きく丸くなっていて、興味津々だと示していた。


「昨日会った黒髪の美人さんだ」


『人の美醜などわからぬ』


 一蹴されてしまった。そうか、確かにオレも沢山の猫を並べられて「どの猫が一番美人か」尋ねられても当てられる自信ないわ。種族が違えば美醜の基準も違うだろうし。


「黒髪で蒼い瞳が美しい、オレくらいの年齢の……あ、昨日背中に乗せた子だよ。めちゃくちゃ綺麗で優しいんだぞ」


 耳の間の毛を撫でてやりながら告げれば、ヒジリは目を細めて聞いている。艶のある黒い毛皮を撫でながら気分よく話を続けた。

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