22.増えた仲間たちの確執(5)
「
『主殿?』
オレの言い方に疑問を浮かべたヒジリから飛び降りて、椅子に陣取る。目の前に並んでいるのは、パンケーキみたいな形の平べったいパンとスープ、サラダ、焼いたハム、卵だった。目玉焼きに近いが、目玉は潰されている。
「キヨ、人聞き悪いこと言うなよ」
「そうだ、聖獣殿が心配しているぞ」
口々に窘められるが、すでにパンに卵と野菜を挟んだオレは小首を傾げた。何かおかしなこと言ったか? だって事実だろう。
「本当のことじゃん」
いただきますと告げてから、パンにかぶりつく。柔らかいパンに感激する。
そういや収納魔法で持ち歩くなら、食料は長持ちするらしい。完全に腐らないわけじゃないので、レトルト食品扱いくらいの感覚だろうか。多少保管できるが、何十年も入れてると食べられなくなる。おかげで茶葉や焼き菓子は持ち歩けた。
誘拐された先で食べたクッキーは涙が出るほど美味しかったのを思い出しながら、柔らかいパンを夢中で頬張る。その必死な姿に、ジャック達がこっそり涙を拭いていた。
哀れむなら、パンをくれ! それも柔らかくて白いやつがいい。
しょうがないだろう、この世界に来てから朝御飯は乾パンと干し肉だったんだから。
もぐもぐするオレの膝に顎を乗せたヒジリが見上げてくるので、手にしたパンを千切って渡してみた。目の前に差し出されたパンを、怪訝そうに匂いを嗅いで口を開く。口に放り込まれたパンをゆっくり咀嚼し、ヒジリは数回瞬いた。
「どう?」
『悪くはないが、肉がいい』
「そっか、残念」
保存食の袋を空中から引っ張り出して、干し肉を取り出す。匂いを嗅ぐヒジリに1枚食べさせた。
「どうした? 歯に刺さったのか?」
必死にくちゃくちゃ噛むヒジリの牙に、干し肉が刺さっているらしい。繊維質だから噛みづらい上に時間がかかる。味はするが、生肉主食の獣に向かない食べ物だったのかも。
「ちょっと口あけて」
無造作に手を突っ込んで牙に刺さった干し肉を抜いてやる。すると、穴のあいた干し肉を再び手から奪って食べ始めた。器用に手で立てて噛む姿は、大型の猫だった。
「大丈夫か?」
『不思議な味だが悪くない』
良くもないが、初めての食感に目を輝かせている。そんな聖獣の姿を見ていた傭兵達の涙腺がついに決壊した。目元を拭うジャックに続き、ノアはハンカチで顔を覆っている。ライアンは目元だけじゃなく鼻も赤くし、サシャは気の毒そうな顔で俯いてしまった。
「どうしたんだ? 皆」
目の前のスープを飲みながら首を傾げれば、彼らは「これも食べろ」と卵やハムを分けてくれる。ありがたく礼を言って口をつけるが、食べる姿にまた涙を零していた。
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