314.拷問じゃないよ、嫌がらせ(2)

「殴るのはいいが、首が折れたら責任はキヨが取れよ?」


「ああ、そっちの心配か。問題なし、処刑が早くなっただけの話だから」


 傭兵って汚れ仕事ばかりだったと聞いてたのに、変なこと言い出すと思ったんだ。にっこり笑うオレに、悪ノリしたジャックが、わざと拳をゴキゴキ言わせながら近づく。牢内の壁にぺたりと張り付いた奥方はあっさり前言撤回だった。


「わ、私は関係ないわ。あの人とは離縁するもの、そうよ。関係ないの」


「何だと!? どう言うつもりだ!」


 まあ、そういうつもりだろう。としか答えられない状況だった。夫婦の一蓮托生は、あっという間に離婚騒ぎになる。周囲の奥方も同様に騒ぎ出し、娘達も母親の味方を始める。


 曰く愛人をよそに作った話や、奥方が問い詰めた際に手を挙げた奴も出てきた。それらを淡々とメモするレイルがにやりと笑う。


「処刑方法は決まったか?」


「おう! ちょうど手が足りない部署があってね。そこを手伝ってもらうことにしたよ」


 偉そうな公爵や侯爵の一族はまとめて、獣人国の建設現場に放り込むことに決まった。ほぼ役立たないだろうが、これは罰だからね。何しろ、先祖代々ちょろまかした利息が、まだ大量に足りない。


「あんたらがさ、王家から奪った利息のほとんどが不当利得なんだよね。分かるかな? 難しい単語でごめんね、簡単に言い直すとあんたらのお金じゃない」


『僕知ってるぅ、探偵物で観た』


 ブラウが得意げに胸を張る。でも猫だけどね。まあ聖獣なので反論したら、一発殴ることにしようか。幸い誰も口を開かず……いや、ぽかんと開いたまま何も言えなかった。


「考えたこともないって顔してるけど。長い年月かけて返済した金の計算がおかしいし、そもそも貸付自体が違法だから。オレのいた世界にもあったんだよ、高利貸しから利息が返ってくるシステム」


 法律相談所へ電話してね! ってやつ。オレは関係なかったけど、両親が電話相談してたな。そこそこの額が返ってきてればいいけど。


 指を立てて、偉そうに講釈を垂れる。


「それから不当利得は返還義務だけじゃなくて、その期間に得られたはずの利益を利息として請求できるから、とんでもない額になる。でもって、あんたらの屋敷や財産を売り払ったと仮定して、足りないんだわ。働いて返してもらうから」


 正確には不当利得は悪意の場合のみ、利息の請求ができる。だが彼らは最初から王家を騙す気だったので、当然利息分も働いて返してもらう。さらにオレが知る法律だと時効があるが……不当利得だったと知ってから何年だっけ? まあ、知ったのがつい先日なので、当然適用対象だ。


 詳しい法律は専門家じゃないから知らないし、都合のいいところだけ聞き齧って適用した。だって……こいつらへの罰だからな。文句を言わせないための方便として使う法律に根拠は不要だった。


 本来、王政ってこういうものだと思う。トップダウンで全部決まっていく。その王家を虐げて、好き勝手に振る舞ってきたツケはきっちり払ってもらうのがルールだ。


「くそっ、そんなの絶対に働かないからな」


「そうだ!」


 言うと思った。にこにこと機嫌よく、罠に飛び込む獲物を眺める。顎に手を当てて考えるフリをした後、思いついた演技で手を打った。


「じゃあ、奴隷制度を一代限りで復活させよう。今回の不当利得騒動に絡んだ貴族は、全員奴隷にする。もちろん仕事内容は建設現場じゃなくて、危険な鉱山や……女性には口にできないようなお仕事もあるし?」


 この国の貴族が、東の国から奴隷を仕入れていた過去は把握してる。彼らの先代までは奴隷が普通に使われた。知ってるよな? 彼らがどんな扱いを受けてきたか、目の前で見たんだから。


「え、あの……それはおかしい」


「おかしくないって。ちゃんと一代限りに限定するから、新たに生まれた子は孤児として教育含め面倒を見るよ。そこは安心して欲しいな。それに自分が望んだんでしょ? お金返すの嫌で働かないなら、奴隷として身を売るしかない――わかってたくせに」


 自分で選んだかのような口振りで、彼らを地獄に叩き落とす。面倒だから奴隷制度なんて廃止するけどね。脅しには効果抜群だった。

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