131.条件付き承諾でしたが(2)

 一緒に西の国のユハから同じ依頼があったのは驚いたけど、ユハやルリの親を殺したのもこの貴族率いる盗賊団だったらしい。隣国に侵入して住民を殺し、奴隷として連れ去り、秋の実りを強奪していたのだ。その犠牲者で遺族なのだから、彼らが貴族を殺してくれと望むのは理解できた。


 この世界に来てから正義と悪の基準がなくても、他者の死に関する恐怖心は薄れた。自分の手で殺してもさして罪悪感を感じない。もちろん親しい人なら別だけど、名前も知らない人が目の前で殺されても何も思わないだろう。まあ、こんな戦争続きの国で麻痺しない方がおかしいかもね。


 そんなわけで、仲間であるレイルやユハの依頼をオレは受けた。北の国に最初に攻め込んだ日の戦は相手を全滅するよう命じたけど、誰も嫌がらなかったな。この世界の傭兵にとって、別に珍しい命令じゃなかったらしい。


 後で差別されてると実感した時に気づいたんだ。彼らは汚れ仕事ばかり押し付けられてきた。人が嫌がる仕事を引き受けるから存在を許され、しかし汚れ仕事をするから嫌われる。最悪の扱いだと思う。だから感情移入しちゃうんだよ。


 レイルは孤児で傭兵上がりの情報屋だって言ってた。あとで事情を教えてくれる約束だけど、オレに依頼したときの雰囲気から、嘘はついてないと思う。甘い考えかも知れないけど、仲間がオレを信じた依頼なら疑わずに受けたいし、嘘か本当かなんて言葉の裏を探りたくなかった。


 ……話が逸れた。


「そうですね……レイルさんの正体に関しては意外でしたが、まあ……合格です」


 苦笑いしたシフェルが頷く。あの強欲貴族が仕掛けた戦であっても、北の国の王族が西の国と結託して中央を攻める計画をしてたのは事実だ。王族は貴族の暴走に巻き込まれて戦場に引きずり出されたが、そもそも王族は特別な存在のはずだった。なのに、中央も北も貴族に振りまわされている。


 オレがこの世界に落とされた原因って――これじゃない?


 もっとも大きく権力ある中央の国でさえ、皇帝の権力が蔑ろにされていた。戦が続くのも、一部の貴族の暴走によるものだとしたら……この世界の人類は滅亡へ向かっている。オレが居た世界でも某国に利己的な大統領が生まれたせいで、第三次世界大戦まで秒読みだと言われてたし。


 恩を返せって呼び寄せた理由がこれなら、確かに外部から強力な能力で一度体制をぶち壊すのが早い。内服薬で治療する段階を過ぎ、外科手術が必要だったんだ。


「なら、北の王族はオレの家族としてよ」


「お任せします」


 シフェルの見極めが済んだ以上、今後の北の王族の動向はオレの責任になる。王が暴走したら義兄と連携して止める必要があるし、義兄シンが攻撃して来たら戦うのはオレの役目。面倒が増えるけど、メリットも大きかった。


 リアムと結婚するにあたり必要な『地位と肩書』が手に入る。敗戦国である北の王族に関する権利がオレに譲渡された今、気に入らない王族を処分するのもオレの自由だった。言うこと聞かなければ、斬りおとせばいい。脳の命令に従わない手足なんて、不要だから。

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