172. アレだけど本当にいいの?(2)
そういや、ヒジリ以外は色にちなんだ名前が付いている。目の前の馬は栗毛。マロンはカッコイイ? うーん。
「ま、マロンでいいかな?」
『マロン!』
きらきらと目を輝かせてる。気に入ってくれたらしいが、名付けたオレが言うのもアレだけど、本当にその名前でいいの?
キャンキャン鳴きわめく小型犬の名前みたいだぞ。モカやチョコみたいな……毛色から想像したネーミングだが、当人が満足してるなら構わないか。
『僕は初めて名前を貰ったよ!』
「え? 前に誰かと契約しなかったの?」
『主殿、それは聞いてはならぬ』
なぜかヒジリに同情混じりの声で止められた。足元の影から大きな獲物を引き摺り出す黒豹は、ちらっとマロンをみて、また獲物を引っ張り始める。傭兵は遠巻きにするだけで、獲物を咥えた肉食獣に手を出す気はないらしい。
ま、オレだってヒジリ達聖獣相手じゃなけりゃ、絶対に手を出さないけどね。噛まれてこっちが餌にされそうだもん。
視線を向けた先で、マロンは満足そうに何度も名前を反芻している。その様子に、もう少し考えて名付けてやればよかったと思った。今更新しい名前にするのも変だから、出来るだけ多く名前を呼んでやろう。
ずるりと引き摺り出した獲物は、どうやら熊のようだ。大きいから全体像がよくわからないが、とにかく大きくて毛深かかった。疲れてぽんぽんと叩いた獲物に寄りかかると、足元に兎が数匹投げ出される。これはブラウの仕業だった。ひょこっと顔を覗かせ、にやりと笑って帰っていく。
ヒジリが黒酢炒めを希望したので、黒酢で柔らかくなる兎肉を獲ってきたんだろう。意地悪い発言が多いけど、意外といい猫なんだよな。
「キヨ、飯の支度するか?」
材料の肉が届いたので、兎を拾い上げたノアが提案する。空を見るとまだ日は高いが、今日の予定はもうない。さっさと食べて明日の移動に備えるのが正しい行動だ。そもそも朝が早過ぎた。
「そうだな、夜明け前から仕事したんだから。さっさと飯食って寝るぞ!」
「「「おう」」」
傭兵連中も手際良く分担を始めた。調理台にするテーブルの上にパンや野菜を並べる。唐揚げは鶏肉のストックがあるので、それも用意した。
希望されたメニューは確か……。
「野菜スープは任せてくれ」
手慣れた様子でナイフを構えたユハが、野菜を切っていく。そのナイフで人殺ししてなきゃいいよ、もう。ハーブや塩胡椒を並べて渡しておく。最近は醤油のスープも人気だが、今日はトマト味にしてもらった。色が青いけど、まあ問題ないだろ。キャベツが紫だから、魔女鍋に見えるのが怖いけど、味は問題なさそうだった。
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