58.師匠に認められた弟子っぽい(3)

「聖獣に赤龍っているじゃん。この子」


「はああああああぁ?!」


 突然の大声に、傭兵達が集まってきた。顎が外れそうなほど驚いているレイルは、顎関節の辺りを擦りながらガコンと痛そうな音をさせる。外れそうだったんじゃなく、外れちゃったみたいだ。悪いことをした。


 擦り寄るコウコが威嚇するように「シャー」と牙を剥く。どうやらノアが手を出そうとしたらしい。これは全員まとめて説明しないと面倒事になりそうだった。


「ヒジリ、ブラウ」


 ついでに彼らも影から呼び出す。ヒジリの黒い毛をなでながら、空いた左手でコウコをなでる。集まった傭兵達がひそひそ話を始めた。


「みんな集まって!! ヒジリ、ブラウが聖獣なのは知ってると思うけど、新しく契約した赤龍のコウコちゃんです! 乙女の身体に勝手に触るのは失礼なので、気をつけてね」


『あら、よく分かってくれてるわ』


 嬉しそうに巻きつくコウコだが、若干首が絞まってるから気をつけて欲しい。指を入れてネクタイみたいに緩めてから見回すと、傭兵達は言葉もなく立ち尽くしていた。


「それ、あの……戦った龍、か?」


 ジークムンドの掠れた声が動揺をよく表している。ジャックは言葉も出ず、彼の言葉に乗っかる形で頷いて指差す。ライアンは眉をひそめて、サシャは額を押さえて溜め息を吐いた。ノアは呆然と立ち尽くしている。他の連中も似たり寄ったりだった。


「なるほど戦場に出現した赤龍をお前が撃ち落したと聞いたが、これか」


 先ほどのオレの注意を無視して手を伸ばしたレイルの手に、コウコの牙が刺さる。ぶっすりと根元近くまで噛んで、彼女?は牙を抜いた。あっという間に血が滲む傷口に、レイルが舌打ちして口を寄せる。血を吸って捨てているようだが、毒はないと思う……たぶん。


「コウコ、まさか毒牙だったり……」


『毒は持ってるけど、今は使ってないわ』


 けろりと告げられた内容に、ほっとしていいのか? まあ毒を入れてないんなら大丈夫だろう。収納空間から取り出した絆創膏もどきをぺたりと貼った。


「毒があるとコレは効果ないぞ」


「持ってるけど、今回は毒を使ってないって。なら、ただの傷だろ。それと……」


 痛そうな顔をしながら文句を言ったレイルの鼻先に指を突きつけて、一応文句をつけておく。


「コウコに触れるなって言っただろ? 乙女なんだから、怒るに決まってる」


「嫉妬深い蛇か? 嫁さんに殺されるぞ」


 言われた内容に「嫉妬? ないない」と笑い飛ばそうとして、シューシュー威嚇音を立てるコウコを見る。まさか、コウコがリアムを噛んだり……しない、よな?

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