311.傭兵の王様誕生だ!(2)
片手で足りる理由だ。ジークムンドは理解できないだろうが、マロンの過去を聞いた身としては納得できる。マロンは裏切られる痛みを知っていて、切り捨てられた過去を持つ。自分は出来損ないだと思い込み、誰かを選んだり選ばれる立場にいないと言った。
なのに、ようやく契約してもいい人を見つけたのだ。それがオレの知り合いで、面倒見のいいジークムンドなんだから、反対する理由はないよな。ちょっと寂しいが、どうせ契約してもオレの隣にいるんだろ?
「ジーク、マロンは寂しがりやだから大事にしてやってくれ。弟みたいな感じで」
「あ、ああ。でも俺でいいのか?」
「うーん、違うな。ジークじゃないと嫌なんだとさ」
「国王なんて柄じゃない」
「周囲に賢い人を配置してやるから、偉そうにしてろよ」
ふふっと笑う。向いていないと自覚してれば、努力家のジークムンドは頑張るさ。その立場に相応しい振る舞いを身につけるのも、すぐだろうな。それに周囲も助けてくれる。ジークムンド班の半数以上は彼についていくから、近衛騎士くらいは結成できるじゃないか?
「あのさ、国王っていってもジークの好きにやればいいよ。口調だってこのままでいいし、オレも変える気はないし」
にやりと笑う。
「傭兵の国が、行儀良くマナー正しい国だなんて、誰も思わないさ。それでいいじゃん」
驚いた顔をした後、ジークムンドの表情が柔らかくなった。そうそう、そんな顔で賢い部下を数人顎で使ってやれよ。国は回るさ。それに傭兵ばかりの国なら、傭兵のやり方で殴り合って解決するのもありだろ。
「我が国は格式張っているが、他国に同様の振る舞いを求めたりはしないぞ。安心してくれ」
「リア、口調が皇帝陛下になってる」
くすくす笑って指摘し、慌てて口を押さえる愛らしい仕草に惚れ直す。正式な婚約者になったばかりの美少女の黒髪にキスをして、真っ赤になった彼女を抱き寄せた。
「ずいぶん見せつけるじゃねえか、ボス」
むすっとした口調のジークムンドに、実はお土産がある。というか、嫁候補だ。
「あのさ、自称才色兼備の伯爵令嬢が婚約の申し出をしてるんだけど……会ってみる?」
思い出した。筋肉フェチのパウラこと愛梨に頼まれてたんだっけ。ジークムンドかジャックを紹介してくれと言われ、ジークムンドを勧めたのは、思い出した時に目の前にいたからじゃないぞ? 忘れたわけじゃない。
「誰だ? 中央の国の貴族令嬢か?」
北の国の王族でもあったオレに尋ねるリアは、未婚の貴族令嬢リストを頭に浮かべたらしい。その中にいるよ。
「クロヴァーラ伯爵令嬢だよ」
親しくても貴族令嬢を下の名前で呼び捨てるわけにいかない。愛梨と呼ぶのも問題ありなので、家名で話を進めた。
「ああ、パウラ嬢か。彼女なら伯爵令嬢だから、ジークムンド殿の治世の手伝いも出来る」
リアの言葉に都合のいい部分があったので乗っかる。
「そうそう。パウラ嬢には兄が3人もいるし。2人は南の国の統治を手伝ってもらうのもいいと思うぞ」
「南の国が乗っ取られる心配はしないのか?」
皇帝陛下らしいリアの指摘に、オレは肩をすくめた。
「傭兵の国だぞ? 乗っ取られたと感じたら、実力で排除されるさ」
金や他の貴族家を抑えて乗っ取ったとして、この傭兵軍団が大人しく頭を下げると思うか? 答えはノーだ。乗っ取った貴族の首をへし折って取り返す。そのくらいじゃなけりゃ、傭兵団のボスなんて務まらない。
「俺らはそこまで野蛮じゃねえぞ」
「ん? でも取られたら取り返すんだろ」
「確かに」
後ろの補佐に頷かれてしまい、ジークムンド達はぽりぽりと頭を掻いて笑い出した。これで一安心だ。オレの思惑通り、各国はそれぞれ独立を保つ。現在属国になっている西の国も、王女殿下が結婚して女王に即位した時に独立する予定だった。
完璧だ! オレが望む独立した5つの国――各地の農産物や特産物は維持できる。笑顔のオレを尊敬の眼差しで見つめるリアの視線が、痛いぞ。絶対勘違いされてる……たぶん、きっと。
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