第35章 ざまぁは熱いうちに打て

311.傭兵の王様誕生だ!(1)

 傭兵への勲章やら褒賞の支払いもあり、北の国での功績に関しても追加報酬が支払われた。ちなみに金の出所は北の王家だ。悪徳貴族が蓄財したあれこれを全部没収した形で、国庫はかつてなく潤っている。潤沢な資金の一部はオレが返済用に貸し出した個人資産なので、後で返してもらおう。


 北の国の地下牢は現在満員御礼、偉い人であっても個室が与えられないほどの盛況ぶりだった。近日お伺いして、謝罪とざまぁの予定だが……まあお祭り騒ぎが落ち着いてからだな。一ヵ月以内には顔を出すので、牢屋の臭い飯を堪能して欲しい。


 心が折れかけた頃、最後のトドメを差したいと口にしたところ、義父が快く頷いてくれた。義兄や義姉も反論せず、途中まで拷問……げふん、尋問しておいてくれるそうだ。悪い顔をしている? 自覚はあるから指摘は結構だ。


 お茶会にジークムンドを招待したら、丁重に全力で断られた。解せぬ、仕方なくリアと一緒に出向いたら溜め息を吐かれる。いい加減失礼だぞ。オレは雇い主だっての。まあそれも数日で立場が変わると思うけど。


 毒見したお茶をリアに差し出し、聖獣達もそれぞれに菓子を食べながらくつろぐ。マロンは今回主役級の扱いで、オレの隣に座った。何しろ南の聖獣だからな。今後契約するジークムンドとの関係は築いておいた方がいい。


 コウコとブラウは継続の更新で落ち着いたが、東のスノーはまだ不満そうだった。どんなにごねてもオレは契約しないからな。新しく獣人の誰かと契約してくれ。


「おう、追加報酬ありがとうな。お陰で何人かは結婚資金も足りそうだ」


「そりゃよかった。合同結婚式しようぜ。お祭りにして楽しんだらいいよ」


 以前にちらりと話題に出た合同結婚式の提案をすると、それはいいとリアも賛成してくれた。結婚衣装も用意して、ついでに希望する国民も募集したらいいよな。新婚さんで式を挙げてない人も招いたらどうだろう。話は一気に盛り上がる。


 以前は傭兵への偏見と差別が酷かったが、最近は少し和らいだそうだ。孤児院の影響もあるが、オレが傭兵と戦争を終結させた話が広まったのだ。広めたのはどうせレイルだろう。好意的な話が広まることがおかしいんだから。普通は反対の噂も同時に広まるものだぞ。


 じいやが用意した緑茶を飲みながら、ジークムンドに南の王家を継いでくれと切り出したところ、青ざめて無言になった。それから辞退を表明するが、ここに拒否権はない。


 聖獣が決めたら、それが世界のルールだ。元神様の分身だし、聖獣は神様のように崇められる対象だ。名指しされたジークムンドに断る選択肢はないんだよ。そう説明したら、さらに青ざめた。


『迷惑、ですか』


 しょんぼりしたマロンの呟きに、周囲が慌てる。護衛を兼ねて食堂に残ったジーク班の傭兵達が協力を申し出て、無理やり頷かせた。下手すると国がひとつなくなるからな。併合すれば南の国という区分がなくなる。だが拒否して契約が消滅すれば、大地が消えた。故郷がなくなる奴も出るわけで、必死だった。


「今後の名前としては獣人の国と傭兵の国でいいのかな」


「そのまま東と南でいいと思う」


 リアがそれでいいなら、全然問題なし。それで行こう。現行が一番いいよね。混乱や呼び間違いもないし。にこにこと相槌を打つオレに、『お調子者ぉ!』と叫んだ青猫を蹴飛ばした。お調子者はお前だ。


 オレに似たガキにお菓子をくれたら、お返しに国をもらってしまったジークムンドはさておき、東の国の獣人の王様も決めなければならない。まだまだ、宮殿内でスローライフは先の話になりそうだ。


「なあ、なんで俺だったんだ?」


 不思議そうに尋ねるジークムンドへ、マロンは数えるように指を折って説明する。


「僕に優しくて、お菓子くれて、誠実で、筋肉がいっぱいで、ご主人様を助けてくれるからです」

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