99.宴会じゃなくお泊まり会(2)

 なぜか父親のようにシフェルが事細かに口出しするが、第二皇位継承者なので後見役なのかも知れない。この辺の皇室のルールはまだ勉強してないので、わからなかった。


「間違っても抱き合ったり、軽いキス以上の挨拶もいけません。あとは……」


「わかってます。清い交際ならいいんだろ? ヒジリ達や侍女も一緒なのに」


 ぷっと頬を膨らませて抗議した。彼女達がベッドを運び込んで同じ部屋で寝ずの番をするらしいし、ヒジリは真ん中で仕切り役をする。ブラウやコウコ、スノーもわざわざ影から出て部屋の中で寝るのだ。ここまで人口が多い部屋で何か間違いなどあろうはずがない。


「一緒でも心配なのです」


「子供同士で一緒のベッドでお泊りするのって、そんなに危険なの」


「いえ、あの……」


 この世界の常識を疑いながら尋ねると、さすがに言い過ぎたシフェルが口ごもった。私室の扉を開けて、ちょっと足が止まる。


 以前に来たときは高そうな絨毯の上で寝たが、ラグみたいに部屋の一部に敷かれていた。それが床を全面覆いつくしているのだ。まるで柔らかな芝が敷き詰められた庭のような変化に、驚いてきょろきょろと見回してしまった。


「どうだろう、模様替えをしたんだ」


 言われた通り、家具も違う。前は濃い木目だったから重厚さや高級感重視だったが、今は白く優しい色合い中心だ。絨毯がオフホワイトなので、全体に部屋が白くなっていた。


「うん、可愛いと思う。リアムの雰囲気に白は似合うね」


 にっこり笑って返せた自分を褒めてやりたい。本当に嬉しそうに頬を赤く染めて笑う彼女が可愛くて、彼女いない歴=人生だったオレには目の毒だった。いや、これこそご褒美なのか!


「あ、ありがとう」


 部屋に入ると、後ろから小さな黒猫が飛びついてきた。よく見ると金色の瞳をしているので、ヒジリだったらしい。まあ青猫が小さくなれるなら、黒豹のヒジリも小さくなるはずだ。


「ヒジリか」


『よくわかったな、主殿』


 小さくなっても性格も口調も変わらないヒジリを、隣のリアムの腕に乗せてやった。せっかく繋いだ手を離すのは惜しいが、彼女は嬉しそうにヒジリの毛皮に頬をすり寄せる。


 黒髪美人と黒猫――眼福の一言に尽きた。

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