293.国主とお菓子は同等か(2)

「東と南の国は一段落、帰ろっか」


 いつの間にか戦いに興じてたが、そもそもオレはジャック達を回収に来ただけなのだ。絨毯爆撃してる場合じゃなく、中央の国に帰ってリアムの婚約者としての地位固めをしたい。その辺はシフェルやウルスラがなんとかしてくれると思うけど。


「帰るのか? もっと他の国も見たい」


「うん、旅行するか」


 オレの決意はリアムのお強請りひとつで流れた。砂のように崩れ去り、あっという間に飛ばされる。にこにこしたオレに、じいやが釘を刺した。


「キヨ様、先に片付けることがおありでしょう」


 言われて考える。今後の展開として、騎士団の粛清はシフェルに任せた。ジャック達も回収したし、東の国は獣人とアーサー爺さんが采配してくれるんだよな。南の国は一度帰ってから、ジークムンドに話して。北の国は建て直しだけだから、ジーク班の傭兵が財産を没収して国庫に収めたら終わり。西の属国は、唯一残った王女様が結婚したら国を独立させて、中央から切り離せば問題なし。


「何か問題残ってたっけ?」


 解決し忘れた事件があったかな。そんなニュアンスで尋ねたら、大きく溜め息を吐かれた。


「皇帝陛下の配偶者となられるなら、もっと学ばねばなりません。知識もさることながら、今後は付き合う国の貴族も覚えていただく必要がございますし。マナーや礼儀作法も中途半端のまま。これでは執事として面目が立ちません」


 きっぱり「礼儀知らず」と言い渡された。潔くここは認めよう。日本のニートが王侯貴族のあれこれを完璧にこなすのは無理だ。幼い頃から自由奔放に生きてきて、お箸の持ち方くらいしか注意されなかった。だから立派なニートに成長したわけだが。


 この世界でリアムの配偶者として暮らすには、まだまだ学ぶことがある。戦場を駆けるより大変な勉強と礼儀作法、ダンス、人との付き合い方……突きつけられた現実に肩を落とした。


「頑張る、明日から」


「今日から頑張ってください」


 おう、引導を渡されるって……ここで使うんで合ってる? 


『主殿、運んできましたぞ』


 ヒジリがのそっと影から顔を出す。そういや、オレを狙撃した犯人を連れに行ってたっけ。影から出てきたが、犯人は生きたまま連れてくる約束だったな。


「犯人は?」


『外ですぞ』


 言われて窓から外を見たオレは、言葉を探した。ほら、あの……鳥が獲物を枝に刺すやつ……生け贄? じゃない。思い出せないが、5人が向かいの建物の窓にある柵にぶら下げられていた。


「じいや、あれ……生け贄みたいな単語」


「早贄ですかな?」


「そうそれ」


 奥歯に挟まった繊維質みたいな違和感が取れる。すっきりした。生け贄、結構いい線いってたな、かなり近かったぞ。


「全部生きてる?」


『ここへ運んだ時は生きておったが』


 責任は持てない。けろりと物騒な発言をした黒豹は、ぺたんと座り尻尾を揺らす。あれか、褒めて欲しいんだな?


 飛びついて全力で撫で回し褒めた。嬉しそうにしながらオレの肩を噛み砕いたヒジリは、ちゃんと治癒してくれる。だが痛いから手首くらいまでにして欲しい。あれか、一度折れた骨は丈夫になるから全身噛む気か。


 ヒジリとのスキンシップに勤しむオレに、びりっと不吉な音が聞こえた。窓の外? 悲鳴と何かを叫ぶ声が響き渡り、引っ掛けた襟が破けた男が転がり落ちる。それを見てパニックになった別の男も転がり……最終的に1人を残して全員落下した。

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