17.教育は情熱だ!!(9)
もぐもぐと干し肉を噛み締めて、口の中で解けてバラバラになった繊維を飲み込んだ。
「シフェルの戦術理論も、お前はすぐ理解してただろう」
「異世界人に知識豊富な奴が多いのは、本当なんだな」
ジャック達の声に「なるほど」と頷きながら、ミルクを飲み干した。空になったコップを逆さにする。これ、この世界の常識なんだそうだ。そのままにしておくと、さっきのノアみたいに延々と飲み物を注がれる椀子蕎麦状態になる。というか、すでに経験した。
「知識は子供の頃に『受験戦争』があるから詰め込まれるんだよ。戦術を習う授業はないけど、昔の歴史を学ぶうちに陣の話は覚えたんだと思う」
引きこもる前から読書は好きだった。歴史物もミステリーや名作文学など、とにかくジャンル問わずに読み漁った時期があったから、多少知ってる方だと思う。まあ、苛められっ子だった過去と重なる記憶なので、あまり思い出したくないが。
「そろそろ、その鬼教官1が来る頃か」
「へえ、鬼教官1ですか。2は誰でしょうね」
背後から気配を消したシフェルの声が響き、驚いて飛び退る。毎朝の早朝訓練の結果、引き抜いた銃の安全装置を外して床に伏せるところまでセットだった。
「……誰でしょう、ね」
うふふと笑って誤魔化すが、シフェルはそれ以上追及してこなかった。ほっとして身を起こし埃を払うと、シフェルの後ろからひょこっと顔が覗く。
「鬼教官2は、余のことか?」
「うひゃあぁ……」
変な声が漏れた。今度はきちんと迎撃体勢を作れず、腰がぬけた様にへたり込む。埃が舞い上がるのを手で払いながら、黒髪の美人はオレの顔を見つめる。
ちょっとやめて。照れるでしょうよ、こんな美人に見つめられたら。
「こ……」
「こ?」
「皇帝陛下が、こんなとこ来ちゃダメでしょうが」
小首を傾げる最高権力者へ、情けない抗議をする。ついでに先の発言をさりげなく誤魔化す。しかし彼は思わぬ切り返しをした。
「この宮殿敷地内はもちろん、この国は余の土地だ。どこに行こうと自由であろう」
「ソウデスネ」
カタカナであっても返事をできた自分を褒めてやりたい。
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