17.教育は情熱だ!!(10)

 渡された大量の歴史書も、ついに最後の1冊になった。


 木陰で大きなトカゲの背に寄りかかり、解説するリアムの声を聞きながら読み進める。ときどき伸びてくる薔薇(食虫タイプ)の枝を指で払うことを忘れない。読書に夢中になりすぎて、髪の先を齧られたのは初日の出来事だった。


 長くなった髪は常に後ろで結んでいる。侍女が丁寧に梳いてくれるため、さらさらのビューティー・ヘアを保てているが、自分だけで手入れしたら間違いなく鳥の巣になりそう。こしの強い髪は一度うねってしまうと伸ばすのが一苦労だった。


 天使の輪が見えるほど艶はある。


 毛先を指で弄りながら、リアムが挿絵を指差した。


「これが俺の先祖だ」


「初代?」


「いや、祖父だ」


 近代史くらいになってからは、リアムの解説が具体的になった。祖父に聞いた話が中心になるから、妙に現実感があって、ときどき脱線する。祖父を尊敬していたリアムが楽しそうに話すので、聞いているオレも楽しい気分になった。


「へえ、歴史書に名前が載るのは英雄みたいだな」


「英雄か。4つの小国を統合した祖父のお陰で、大陸最大の国土を誇るから……確かにそうだ」


 話をしながら、教えてもらった魔法でお菓子を取り出す。ついでにお茶の道具も追加した。本を開いた手を離して、宙に浮かせる。この程度の魔法なら意識しなくても使えるようになった。


 一言言うと、すごく便利。前の世界で使えてたら、確実にニートになってた。こんな便利な能力あったら、世界を救うために苦労しようと思えないわ。コタツから出ないでみかんを取り寄せられるんだぞ? それも階下のキッチンの片隅から。


 ささやかな己の幸せのために、滅茶苦茶活用しながら生きていくと思う。


「お茶は何がいい?」


「そうだな、先日のハーブティは美味しかった」


「今日はミントにするか」


 振り返った庭の片隅に生えているミントの葉を魔力で摘み取る。途端に襲ってくる蔦をバリアしながら葉を確保し、薔薇の攻撃も叩き落した。


 襲ってくる植物はすべて魔力がある。つまり魔力を感知する能力を切らなければ、ずっと動きを監視できるのだ。最初は感知を維持するのが難しかったが、毎日の訓練や突然の奇襲に対応しているうちに、当たり前に維持できるようになっていた。


 シフェルやレイルの訓練は厳しすぎるが、確実にオレの能力を引き上げた。ここ数日は、早朝の訓練も苦にならない。魔法が使えるようになったため、最近は半分眠ったままバリアを張って攻撃を防いだくらいだ。


「茶菓子はクッキーにしてみた」


「クッキー、……焼き菓子か?」

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