17.教育は情熱だ!!(11)
「はい、あーん」
差し出されたクッキーとオレの顔を見比べ、リアムは素直に口を開いた。実はこれ、つい先日リアムにやられたばかりだ。仕返しと言うわけではないが、リア充みたいでやってみたかった。
「紅茶か?」
「うん、先日分けてもらったじゃん。あの茶葉を入れてみた」
リアムに「あーん」をされた日に出された紅茶の茶葉だった。アールグレイに似た香りと味が気に入ったと褒めたら、茶葉の入った缶を2つも持たされたのだ。たくさんあるからシフォンケーキを作ろうとしたのだが、生クリームの代用品が見つからなくて諦めた。
ちなみに、過去のオレに料理の才能は皆無だ。当然だろう。両親や兄弟も揃った現代日本のニート男子が、お菓子作りの才能があるなんて……そんなのラノベやBLくらいだ。だいたい菓子作るほどマメなら、引き篭もらずに就職してる。
オレが料理を作れる理由は、たったひとつ――魔法だ!
といっても、願えば出てくるほど簡単ではない。過去の知識を生かして『食べたことのあるもの』の味を再現していた。甘い、さくさく食感、焼いてある、小麦粉、卵、バターくらいの認識で、材料を適当に集めて魔力を込める。風で混ぜて水を入れて火で焼いた。
数回失敗したが、今では食べられるレベルのお菓子が作れる。知識の曖昧な部分を魔法が補った感じだが、実は失敗して部屋を1回吹き飛ばした。あのときのシフェルは本気で怖かったな……窓ガラスどころか壁ごと吹き飛ばしたのが悪かったんだろう、たぶん。
遠い目をしてクッキー製作の苦労を思い出していると、リアムに袖を引っ張られた。視線を向けると、ミント茶片手に待っている。
いけね、忘れてた。
「失礼、お先に」
一声かけてミント茶を飲み干す。適度に温くなったお茶は、すっきりした味わいで喉を通り抜けた。飲んだのを確認し、リアムはふぅと息を吹きかけて温度を確かめながら口をつける。
猫舌らしい。なんだろう、この皇帝陛下――いちいちオレの好みなんですけど。カミサマにBL展開でも仕込まれてるのかもと疑いながら、リアムの反応を待つ。
「ハチミツ、か?」
少し甘くしておいたのだ。リアムは甘党のようで、前回のハーブティにハチミツを混ぜたら嬉しそうだった。見逃さずに頭にメモしておいたので、今回も少し足してみた。
「気に入ったならよかった」
微笑んで、薔薇の攻撃を叩き落す。なんなの、この薔薇みたいな植物……リアムは攻撃しないくせに、オレばっかり狙うんですけど? そういや、シフェルも襲われていなかった。どちらかといえば避けられてたかも。
寄りかかったトカゲが身じろぎする。所謂、西洋のドラゴンがこんな形じゃないだろうか。でっかいトカゲか恐竜に羽がついた感じだ。聞いたところ、この羽は飛ぶときに羽ばたかないらしい。飛ぶのは魔力で、飛んだ後の方向転換や上昇気流を受けるのに使うようだ。
ジェット機の翼のイメージが近い。まあ燃料じゃなくて、魔力で浮いてるんだが……。
この竜は属性と関係があるらしく、竜属性の人間にとても懐く。
「ここから先は母の治世だ」
教科書代わりの歴史書の後半は、まだ新しい紙だ。最初に発行した本の表紙を打ち換えたらしく、中の紙が途中から白くなった。前半の祖父の代はすこし黄色く変色している。
「え、お父さんじゃなくて?」
「ああ、竜の血は母に受け継がれた」
先々代の皇帝が祖父で、その娘である母が先代なのか。するとリアムの父は婿さんってことだよな。頭の中に家系図を描いてみる。
「だが母は暗殺されたので、その後を兄が継いだ」
「へえ……ん? お兄さんいたの」
とんでもない発言だ。まず母が暗殺って……女帝である人が簡単に暗殺されちゃダメだろ。周囲の護衛は何してたんだ! でもお兄さんが跡を継いだなら、なぜ今リアムが皇帝なんだろう。
浮かんだ疑問はすぐにリアムが解決した。
「ああ、次いで兄が殺された」
「………どんだけ無能な警護だ」
本音が駄々漏れる。だってそうだろ。最高権力者が2代続けて殺されるって、警護の失態でしかないじゃん。飛び起きたオレに驚いたのか、背中のクッション代わりの竜が迷惑そうに鳴いた。
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