第11章 内側の裏切り者

46.真相は欲望の香り(1)

 芝の上に座ったレイルが、ひょいっと収納空間から報告書を引っ張り出した。束ではなく、僅か1枚の薄いカードだ。以前に報告書を同じ形で見たため、受け取るとすぐに読み始めた。


「なんで胸元に入れてこないんだ?」


 収納するまでもなく、胸ポケットでも十分入れられる大きさだ。失くす心配をしてるんだろうか。オレの疑問へ、レイルは苦笑いして額をこづいた。


「おまえ、おれの授業を聞き流したな? 情報は命より大事だと教えただろ」


 確かにそんな話を聞かされた。どんな見事な作戦でも、相手に筒抜けなら愚策になりさがる。素晴らしい案も、敵に奪われたら利用される。その危険性について説明された中で出てきた言葉だった。


 命より情報を大切にしろ。


「そこまで重要な情報…………だね」


 てっきり今回の西の国に関する情報だと思った。作戦に関する情報をシフェル辺りに頼まれて、運んできただけだと……勝手に考えていたが、内容はもっと重要なものだ。


 リアムと食べた食事に入っていた毒の種類と入手経路、実行犯と主犯について書かれた報告書を読み終えると、すぐに自分の収納空間へ放り込んだ。こんなもの、他者の手に渡ったら大変だ。


「本当なのか?」


 声が少し掠れる。気遣う眼差しをくれるノアやジャックにも話せない。ごくりと喉を鳴らしたオレの表情に緊張を読み取り、レイルは肩を竦めた。ちくちくする芝を撫でながら視線を逸らし、言葉を探してから顔をあげる。レイルの薄氷色の瞳は鋭く、正面からオレに突き刺さった。


「おれの名にかけて」


 情報屋としての仕事に誰より誇りを持つ男の断言に、ぐっと拳を握る。真剣な話にジークムンド達は距離を置いていた。こういった気遣いは大人の対応だ。逆にオレと距離が近いジャック達は、心配から側を離れられないようだ。


「ジャック、ノア、サシャも……ちょっとごめん」


 離れて欲しいと口にしたオレの頭をぽんと叩いて、最初にジャックが離れた。サシャは溜め息をついて苦笑いを浮かべるが歩いていく。ノアは心配そうに眉根を下げていたが「あとでな」と声をかけて距離を置いてくれた。


「しっかりボスしてるな」


 揶揄うレイルの声に肩をすくめ、もう一度報告書を取り出す。表示した内容の下部に名前がいくつか羅列してあった。見覚えのない名前もあるが、一番上の主犯は知っている。


 ――――スレヴィ・ラ・メッツァラ。


 熊属性の大柄な身体と真面目そうな性格、シフェルの兄である人。

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