45.僕と契約して主になってよ(3)

 泣きまねをして顔を手で覆うが、胡散臭そうに見てしまった。掴んでいるのに疲れたのか、ジャックが地面に猫を下ろす。ノアはナイフを手放さずにオレの隣に移動した。さきほど飛び掛ったので、警戒されたらしい。


「お前のオレに対する扱いが酷いからだろ。やっぱ猫だな」


『さすがは主殿。分かっておられる』


 得意げな顔をしているヒジリに、お前も猫科だろと言ってやりたいがやめておく。機嫌を損ねると噛まれそうだし、彼はどうやらブラウをあまり歓迎してないらしい。尻尾が苛立ちを示してるから、刺激しないのが正しい対処だと思う。


「……もう大丈夫か?」


 ジークムンドが強面をしかめながら近づいたので、頷いて手招きした。傭兵達がぞろぞろ集合する。木の結界はもう不要らしいので、この際解除しておいた。魔力使いっぱなしだったが、疲れも眠気もない。やっぱり魔力が増えているんだろうか。


「それで部隊としての動きはどうする?」


 サシャの問いかけに話が振り出しに戻った。シフェル達の合図がないのに動くと、互いに危険だ。失敗しても彼らなら逃げ戻れるだろうし、オレ達の役目は囮なので追加の戦力と考えられていなかった。応援に駆けつけても邪魔だろう。


 合図待ちで休憩したり、結界テストをして時間を潰したが、見上げる空はそろそろ夜の色に変わりそうだ。迷って唸ったとき、突然現れた気配にびくりと肩を震わせた。


 魔力感知に引っかかったのは、獣ではない。


「誰か来る、展開しろ」


 小声での指示に、ジークムンドとジャックが一瞬で目配せした。すぐに周囲に散らばる仲間を見送り、オレは囮がてら魔力を消さぬまま芝の上に座る。後ろに立つヒジリが姿勢を低くした。胡坐の上に上ろうとしたブラウを押しのける。


「ちょ、無理。足が痺れちゃうだろ」


 じたばたするオレの魔力感知が、覚えのある気配を捉えた。さきほど感じた魔力の主は知り合いだった。安堵の息をついて立ち上がる。


「こっちだ、レイル」


 手を振って位置を示すと、茂みを掻き分けた赤毛の青年が顔を覗かせた。ぐるりと見回して、苦笑いする。


「悪い、警戒させたな」


「いや……戦時中だから当然でしょ」


 にっと笑うオレの頭を、彼は容赦なくかき乱した。お返しとばかり腹部に軽いパンチをお見舞いする。そんなじゃれあいに、呆れ顔のジャックが近づいた。


「なんだ、レイルか」


 お茶を入れたコップを差し出すノアに礼を言って飲み干すと、サシャがオレの髪についた葉っぱを取ってくれる。さきほどブラウに絡まれたときについたのだろう。


「それで、この大きな青猫はまさか……」


「うん、契約した聖獣。増えちゃった」


 てへぺろしたオレに、レイルは「非常識すぎる」と引きつった笑みを浮かべた。

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