45.僕と契約して主になってよ(2)

「ヒ~ジ~リ~、教えて」


『ダメだ』


「けちっ」


 唇を尖らせたオレの足に、爪が触れた。必死で気付いてもらおうと暴れる青猫がぴかっと光る。青白い光がオレに降りかかって、すぐに消えた。


「……うん?」


『契約完了!』


 なぜ一方的なのか。使役獣のくせに、向こうからの契約だけっておかしいだろ。オレに事実上の拒否権ないじゃないか。むっと頬を膨らませたオレの表情に、傭兵達は一斉に銃を猫に向ける。ヒジリの爪にぐっと力が込められた。


『主! 殺されちゃう!!』


「オレさ、ちょっと今カミサマへ盛大に抗議したい気分なんだよね」


 突き放した言い分にあたふたした青猫が、くるんと丸まって顔を両手で覆って、ちらっと隙間からこちらを見る。これ、実家の猫もよくやってたな。何かお強請りするときの姿勢だ。くねっと身体を動かして、さらに角度を変えて見上げた。


『にゃん♪』


 あざとい所作なのに、なぜか怒りが持続しない。仕方なく溜め息をついて気持ちを切り替えた。


「はい、皆ストップ。特にヒジリは爪が食い込んでるぞ」


 不満そうに唸るヒジリの首をぽんぽんと叩いて宥める。不真面目な聖獣だろうと、腐っても聖獣。役に立てば持ち帰る価値があった。


 そうだ、リアムは黒豹のヒジリを気に入っていたから、この青猫をプレゼントしたら喜ぶかもしれない! 命令してリアムの護衛を……あ、ダメだな。オレ以外の奴が彼女に侍るとか無理。


 心の狭さを自覚したところで、オレは大きな猫をヒジリから救出した。すでに契約が済んだため、この猫がオレに危害を加える心配はない。


「今日から仲間になった『青猫』さんです」


『主、名前は?』


「聖獣に性別はないんだっけ。じゃあ……ブラウかな」


 確か何かのアニメで使ってた名だ。青を示す単語で、ドイツ語だったかな? 記憶を手繰りながら名付けると、きらきら光りながら抱き着かれた。


「爪、爪が痛いッ! こら、ブラウ!」


 爪を立てる猫を引き剥がそうと暴れるオレを見かねたのか、ジャックが猫を後ろから捕まえてくれた。じたばた手足を動かす姿は可愛いが、あのジャックをして身長の半分以上になる大きな猫は異常だ。


「……ヒジリ、この世界の猫って全部大きいのか?」


『いや、ここまで大きいのはあやつくらいだ』


「キヨ、結局この猫はどうするんだ?」


 困惑顔のジャックに前足の付け根を掴まれた猫は、干物のようにぶら下がっていた。情けない姿だが、仕方ない。引っかいたコイツが悪い。


「もって帰るぞ、一応聖獣らしいし役に立つかも」


『一応じゃなくて、聖獣だよ。主の扱いが酷い』

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