100.キスは未遂だから!(2)
「先ほどの行動は減点対象です。あまりマイナスが多いと、婚約に響きますよ」
にっこり笑いながら言われたオレは、慌てて顔の前で手を振った。
「何もしません。してません!」
「どうして部屋にいないのだ?」
オレがいなくなったので、顔に朝日がかかったらしい。目元を擦りながらリアムが顔を覗かせる。ネグリジェ姿がバレるとまずい! 慌ててシフェルと目配せして、オレ達は中に滑り込んだ。シフェルが壁になった隙に、リアムを部屋に押し戻す。続いてシフェルが周囲を警戒しながら中に入り、扉を閉めた。同時に2人で溜め息をつく。
「仲良しだな」
天然なのか、リアムは機嫌よく笑った。まだ少女だからなのか、作らなくても美人だからか。寝起きのすっぴんを晒しても平然としている。黒髪を撫でて額に挨拶のキスをした。
身長が少し足りなくて、背伸びするのはスマートじゃない。いつかお姫様抱っこでベッドに運ぶ日を夢見ながら、同様の挨拶を頬へ返してくれるリアムの唇の柔らかさに目を閉じた。ずっとこのままでいたい。
「そこまでです」
べりっと引きはがされ、足元にすり寄る大きな黒豹に回収される。背中にオレを受け止めたヒジリは窓際へすたすたと歩いていった。
『主殿、女性は身支度がある。その間に着替えてしまえ』
「気が利くな~、ヒジリは男前だもんな」
男女の別はない聖獣だが、嬉しそうに振られる尻尾が太ももにぱしぱしと当たる。侍女に促されたリアムが隣室へ着替えに行ったのを確認し、着替えの服を取り出す。収納魔法はこういう場面でも本当に役立つ。オレの場合は全財産を持ち歩ける容量があるから、余計に便利だった。
デニム生地の半ズボンとシャツを選んで、今着ている服を魔法で清めて放り込む。
『ぇろがきぃ』
『主人、あたくしは?』
ヒジリを褒めたため、他の聖獣が近づいてきた。にやにやする青猫を、半ズボンを履くついでに転がす。ごろんごろん2回転した青猫だが、楽しそうなのでよし。
シャツを羽織るとボタンを留めながら、ブラウに絡んで締めあげているコウコの頭を撫でた。
「コウコは艶もあって鮮やかで色気があるよ」
『そんなに褒められると、もっと締めちゃう』
『ギブッ! 締まる、しぬぅ』
締めすぎた青猫が痙攣するが、コウコはうっとりしていて聞いていない。苦笑いして解いてやった。そのままコウコが腕に巻き付く。会話に参加しないスノーを探すと、彼はまだベッドの上にいた。
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