第6章 聖獣、一方的な契約
21.呼ばれぬ客の想定外(1)
「「「「「え?」」」」」
全員、いるよな? 行儀悪く指先で人数を数えるオレを他所に、騎士が一斉に剣を抜く。
そして、奴は現れた。
魔法陣の向こう側、西の自治領は明るい日差しが輝いていたが、こちらはまだ早朝のようだった。湿気が多くて肌にまとわり付く。不快感を感じるほどではなくて、明るくなりかけの空が紫がかった色を振りまいていた。
朝の芝の上、のっそりと足を踏み出す。しなやかな身体がひとつ伸びをして、大きな金色の目が輝いた。以前見たときは黄色だと思ったのだが、こうして明るい場所で見ると金色だ。
「豹……」
呟いたオレの声に反応したのか、ゆったりと細い尻尾が揺られる。大きく左右に振る仕草は、実家で飼ってた猫と同じなら……機嫌がいい証拠だった。
『見失ったが、やっと見つけたぞ』
聞こえた声にきょろきょろ周囲を見回すが、誰も反応しない。あれ? なんで? つうか、話した声は誰。混乱するオレに、再び正体不明の声が告げる。
『何を慌てている。目の前にいるであろう』
偉そうな口調につられて前を見るが、いるのは黒豹。その後ろに剣を構えた騎士が数人。うん、豹はない。フラグを立てたオレの予想の斜め上を飛ぶように、豹はとことこ無防備に歩み寄った。
「え、ちょ、うそ」
武器がないのであたふたするが、その前に騎士が前に飛び出した。構えた剣の先を向けられ、黒豹は感情もあらわに表情を変える。猫科の動物は表情が乏しいと聞くが、この豹には当てはまらなかった。
鼻のあたりに皺を寄せる。唸る時の顔に近い。
『しかたない、これならば聞こえるか?』
明らかに豹が話したとしか思えない位置から声が聞こえて、「はあ?」と間抜けな疑問が口をつく。同時に周囲がざわめいた。どうやら彼らにも聞こえたらしい。オレには同じに聞こえるが、リアムや騎士も顔を見合わせているので突然聞こえた形なのだろう。
『主殿、この剣を下げさせてくれ』
「いやいや、主はおかしいでしょ」
勢いよくツッコミを入れてしまう。手まで添えて突っ込んだため、豹は目を見開いた。やはり猫目で縦に瞳孔が開くらしい。金色の瞳がきゅうと収束して、僅かに色を変えた。
『契約したであろう』
「してない」
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