20.振り翳す、正義という名の我が侭(9)
余計なことはしないと約束し、最初の騎士達を見送る。以前に習ったが、最初に騎士の半分が転移するのは、転移先の安全を確保する目的があるのだ。
軍の編成やルールは本当によく考えられていた。
ひらひら手を振ると、4人ほどの騎士が転移する。ちなみに転移の魔法陣があれば、魔力はたいして必要としない。魔法陣自体に事前に魔力を込めてあるのだ。魔法陣の書き方をリアムに教わった時間を思い出す。あの時は幸せだった。
お昼寝後の怠い時間に座学では寝てしまうの確実だが、あれだけの美人がマンツーマンで教えてくれる。彼に見惚れるオレは必死で覚えた。バカだと思われて呆れられたら、それこそ立ち直れなくなりそうだったのだ。
象牙色の健康的な指先が、魔力を込めて描く魔法陣は美しかった。目の前の転移の魔法陣も教わったが、少しばかり文様の配置が違う。転移する先の指定が関係しているのだと分析しながら、そっと魔法陣に手を触れた。
ざらりとした布の感触を通り抜けて魔法陣の縁に触れた瞬間、吸い込まれるように落ちる。
「「「「キヨっ!」」」」
叫ぶ声と伸ばされた手を残し、オレは転移の渦に巻き込まれた。
転移した先で何かにぶつかる。頭をしたたかに打ち付けて呻いた。
「ううぅっ、痛い」
「セイ!!」
実際には1日半くらいなのに、まるで数週間離れていたような気がする。ばっと顔を上げた先で、黒髪に縁取られた美しい蒼い瞳が目に飛び込んだ。そのまま勢いよく飛びつかれて、後ろの芝の上まで滑りながら受け止める。
せ、背中が痛い。あと最初にぶつけた頭と、右足首の骨折が……。
「心配したぞ、軽率に罠に飛び込みおって」
「ごめんなさい――悪いけど、起こしてくれる?」
「…っ、右足首を骨折したのだったな」
人目があるからか、リアムは皇帝としての口調を崩さない。しかし咄嗟にセイと愛称を呼んだくらいに取り乱していた。引き起こされると、今度はしっかり手を握られる。
森の中と同じように布に描かれた魔法陣は対になっているらしく、その上に人が乗った状態でオレが転移されたからぶつかったようだ。騎士が下りた魔法陣が光って、今度はユハと少女を連れたジャックが到着。すぐにノアたちも続き、最後にクリスと残りの騎士が転移した。
これで全員終了だが……ふと疑問が過ぎる。
「あのさ、向こう側の魔法陣は残してきたの?」
王宮に繋がる魔法陣を残してくるなんて、見つけた追っ手にとって幸運過ぎるだろう。ほぼすべての動物は魔力を持っているのだから、魔獣が転移しても危険だった。
「ああ、それなら対のこちらを壊せば消えて、ただの布に戻る」
魔力で刻んだ魔法陣は対の片方が失われると反対側も消える、説明を受けている間に魔法陣が光った。
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