33.朝から衝撃的シーンと事実(2)

 勝手にリアムが来たとは言いたくないし、ソファから床に落ちた理由もよく分からない。混乱した状況で、シフェルの緑の瞳から逃れようと身体を縮こまらせた。すると、忘れていたが背もたれになった黒豹が欠伸をして動き出す。


「ヒジリ、助けろ」


『主殿、腹減った』


「飯は後で肉をやるから、とにかく状況を説明してくれ」


 黒い耳がぴくりと動いたあと、ゆったり尾が振られた。


『あの不思議で甘い焼き菓子も……』


「やる! やるから説明!!」


 上手に乗せられた気もするが、ヒジリが出す条件を飲んでいく。お強請り成功で満足したのか、ヒジリはするりと抜け出してお座りした。


『昨夜の主殿はすぐに眠った。我の尻尾を握って擦り寄ったため、抱き込み直したのだが……この黒髪の者が枕片手に忍び寄ったのだ。静かにとジェスチャーするゆえ、我は動かなかった。このとおり主殿に抱きついて眠ったが、ずっと我も共におったぞ』


 つまりリアムが自分で寄ってきた上、2人きりではなくヒジリも同衾(?)したと証言してくれる。ちょっと安心した。とんでもない発言が出たらどうしようかと思った。


「な? 同衾じゃないだろ!?」


 なんで必死に言い訳してるのだろう。内心首を傾げるが、この睨みつけられる状況から逃れたい一心で必死になった。


「ん……朝か」


 欠伸したリアムが目元を擦りながら身を起こす。ようやく取り戻せた痺れた腕で、さらさらの黒髪をなでた。無邪気にもうひとつ欠伸した皇帝陛下は、緊迫した状況を無視して挨拶をする。


「おはよう、セイ。シフェルも…早いな」


「おはようございます、陛下。昨夜の私の話を覚えておられますよね?」


 確認の形をとっているが、断定系で言い切ったシフェルの笑顔が黒い。きょとんと首をかしげ、すぐに思い出したリアムが頷いた。


「ああ、同衾してはならぬのだろう? だから、一緒に床で寝た」


 布団やベッドなどの寝具の上でなければ問題ない。きらきらした目で言い切ったリアムの世間知らずさに、シフェルは頭を抱えた。もっときちんと言い聞かせるべきだったのに。


 がくりと崩れた騎士の姿は、昨夜に続いて二度目だった。ここまで騒ぐ理由が分からないオレは疑問符を浮かべたまま、収納空間から着替えを取り出す。


 今朝のうちに準備をして、午前中早い時間に戦場へ転移すると聞いた。さっさと準備をしようとシャツを脱いだところで、床に懐いていたシフェルが復活する。


「キヨ、ここで着替えてはなりません。陛下も……」


「なんで?」

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