187.調味料天国じゃん! 調達、調達ぅ!!(3)

「行ってくる」


 大急ぎで飛び出したオレは奥さんの手を引っ張って走る。見送る傭兵達は護衛につくわけもなく、手を振って見送った。その様子が奇妙に思えたのか、リシャールが呟いた。


「誰も、護衛につかなくていいのか? ここは敵国だぞ」


「ああ? アイツに勝てる奴がいたら見てみたいね」


 レイルはひらひらと手を振って、欠伸をした。そのまま昼寝を始めるレイルをよそに、傭兵連中も各々食料調達に動き出す。必要経費が入った袋から、ノアが傭兵達に金貨を渡した。


「経費の管理も傭兵なのかよ」


 驚いた様子の兵士へ、ノアは事も無げに返した。返事しなくてもいいのだが、キヨがこの国を制圧するなら、この捕虜もすべて戦力なのだ。ある程度の共有意識は必要だろう。面倒見のいい彼らしい考えで、作業の手を止めずに顔を上げた。


「この部隊はキヨ以外、全員傭兵だ。俺らは金で動くが、キヨを裏切るくらいなら命を捨てる。それだけの話だ」


 簡単そうに告げるが、傭兵は裏切られ差別される経験で他人を信用しなくなる。二つ名持ちは尚更だった。金は彼らを裏切らない。仲間すら信用しないと言われる傭兵がこぞって、あの子供に心酔する姿はさぞ滑稽だろう。


 外から見れば奇妙でも、当人達はいたって真面目だった。


「どうして、そこまで……」


「お前らは使い捨ての駒だ。そう言われた俺らは、いろいろと諦めてきた。手を伸ばすことも止めた指先をアイツは遠慮なく握る。当たり前みたいに、他人を受け入れて笑う。甘い坊ちゃんかと思えば、厳しい面もきっちり持ってて、裏切れば捨てられるのだとわかった。だから安心なんだよ」


「一緒にいるとほっとする。傭兵の俺らに料理を振舞う上官なんているか?」


「そうそう。それに傭兵に文字を教えるんだぜ? 間違えても怒らないで何度も丁寧に教える。そんな奴いないさ」


「孤児を集めて飯を食わせ、教育するって言いだしたのは驚いたよな。ボスは王族になって金もあるんだから、のんびり暮らせばいいのによ。その金を孤児につぎ込むんだ」


 ボスほど馬鹿は見たことねえよ――口々にそう言いながら、傭兵達の目は優しかった。受け入れられたから受け入れる。そんな単純な関係じゃないと知れる表情は、兵士が戦場で見た傭兵の殺伐とした一面を打ち消した。


「まあ理解しなくていいさ。ボスは俺らのボスだからな」


 爆弾の配線を弄りながら、ヴィリは結論付けた。大切な主君であり、孤児や傭兵の庇護者で、聖獣を従える強者。それだけではないと笑う傭兵の強さに、リシャールを含めた兵士たちの認識が変わっていく。傭兵に堕ちたら負け……そう考えていた自分達が滑稽に思えた。


 自由に生き、好きな主を選べる彼らの生き方を羨ましいと感じた瞬間だった。

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