218.追いかけっこと尋問ごっこ(3)

『主様がいるからです』


 スノーが当たり前のように言い切った。


『聖獣の主人である主殿がいるから、南の国は安定しているのだ』


 足りない説明をヒジリが補ってくれる。今はオレがいるから保てているバランスって意味か。


「……それって一大事じゃん」


 オレがこれから東の国の貴族連合と手を組んで、国境を跨ぐ。すると聖獣の契約者がいない南の国は、一気に衰退する――合ってる?


 確認されたヒジリは、ひとつ頷いた。肯定されたら知らなかったは通用しない。さて、オレはどうしたらいい? 国境に右足と左足を置いて、両方の国に立つとか。一生そのままでいるわけにいかないし、中央に帰りたいけどね。


『そう? 滅してしまえばいいじゃない』


『新しい国を作るまで、僕は主様と一緒にいます』


『僕も……ご主人様と一緒がいい』


「コウコは物騒すぎ、スノーも少し思い切りが良すぎて怖い。あと……マロンは普通に一緒にいなさい」


 もう最後は命令形だった。だって一緒の部分の切なさが、スノーと温度差すごい。本気度が強すぎて、一緒にいていいじゃなくて、一緒にいなさいと命令したくなるんだよ。単に憐むのとも違う、こう……ニートしてた頃の切なさを思い出した。


 オレにだって学校で話す友達くらいいた。でも学校を卒業すると付き合いは薄れてく。友人に新しい人間関係が構築され、オレから離れてくのを指咥えてみてた時「どうしてオレにはなんでも話せる親友がいないんだろ」って思った。どんな悩みでも口にできて、叱ったり笑い飛ばせる親友……ただ馬鹿話する友達なんて幾らいても消えちゃうのにさ。


 アニメを観ながら、希薄な友人関係を思って涙したのを思い出した。あの時の気持ちが蘇るのは、マロンの考え方が卑屈だからだ。学生だった頃のオレにそっくりかな。


 シフェルが大人しく教えてくれた報告内容から、ひとつを削除するように「お願い」する。渋い顔で受け入れてくれた公爵閣下に敬礼だ。それからマロンと手を繋いだ。


「今日は移動するから、向こうに着いたら早めに休もう。マロンは何が食べたい?」


『僕は肉ぅ』


『我はシチューなるものが気に入ったぞ』


『お魚が食べたいわね』


『お肉を挟んだパン! 今朝の美味しかった』


 青猫、黒豹、赤龍、白竜……それぞれが勝手に要望を口にする中、じっと待った。自分から言えるよな? そんな期待を込めた眼差しを向ければ、小さなオレははにかんだ表情で笑った。


『僕はご主人様が作るなら、どれでも食べてみたいですけど……できたらまだ知らない味を知りたいです』


「よし! 黒酢炒めを食わせてやろう。まだ食べたことないだろ」


 くすくす笑いながら頭を撫でると、マロンの目が大きく丸くなる。聞いたことがない食べ物らしい。野生なら酸っぱいものなんて口にしないだろうし、きっと驚かせてやれる。まだ朝ごはんを食べた後なのに、夕食が楽しみになった。

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