165.転移に魔法陣いらなくね?(3)
いそいそと隣の部屋へ押し込まれた。すこし心の準備が必要だからと説明したが、実のところ、不安だらけだ。よくあるラノベ展開で高さの設定間違えて足がちょんぎれたり、手を置いてきちゃったらどうしよう。
あちらの部屋に置いてきたヒジリが手足くらいなら復活してくれると思う。でも万が一だが、間違えて切れた先が首だったら? 文字通り首切られちゃったら復活できなくね?
うーんと唸りながら、周囲を見回して気づいた。ここ、リアムの寝室じゃん。なんか爽やか系のいい香りがする。すんすんと匂いを確認し、導かれるように扉を開いた。
「っ、これは!」
リアムのドレスが並んでいるクローゼット的なお部屋だ。つまりこの大量の布の中に、彼女の下着もあるわけで……どきどきしちゃう。そっと扉を閉めて、寄り掛かって自分の背で封印した。
ここは危険だ。絶対に開けちゃまずい。ふう……溜め息をついて顔を上げると、足元の影から青い毛が覗いていた。むっとして引っ張ると、ニヤニヤした猫が出てくる。
「何してんだよ、ブラウ」
『主ぃ、それは僕のセリフじゃない? 何してたの?』
「……何も」
言えるわけねえだろ。こいつ、お喋りだもん。絶対にリアムやシフェルにチクる。黙ってることを条件に脅してくるかも。目を逸らさず睨みつけると、尻尾を握られてぶら下がるブラウがじたばた暴れ始めた。
『尻尾痛い』
「大人しく影で寝てろ。命令だ」
離した途端に向こう側で余計な発言しないよう、しっかり命令してから足元に押し込んだ。さて、そろそろ転移しないとまずい。主にブラウのせい――実際はクローゼット覗いてたせい――で時間が押していた。
するりと影に引っ込んだ青猫を見送り、オレは深呼吸した。気持ちを落ち着けるための深呼吸で興奮しちゃうとか、ちょっと自分でも変態っぽいと思うけど。
こっそりとベッドの枕の部分を撫でちゃったりしたけど、リアムの魔力を感知してイメージを作った。彼女の隣にさっと現れて、にっこり笑って膝をついてから手のひらに口付ける。そのイメージを強くして、「よし」と気合をいれた。
ふっと身体が浮き上がる感じがする。魔力をそのまま高めて「リアムの隣、リアムの隣」と何度も呟いた。ジェットコースターが落ちた瞬間の、鳩尾の下がふわっとする感じ。あれに全身を包まれて、肌がぞわぞわした。
思わず閉じた目を開いた時、目の前に驚いた顔の黒髪美人がいて――反射的に抱きついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます