165.転移に魔法陣いらなくね?(2)

「まず内容を話せ」


 非常識なのはいつものこと。だったら内容を聞いて判断した方が早い。レイルの発言に同意したウルスラとシフェルも椅子に落ち着いた。オレは膝に乗せたお姫様ならぬ、皇帝陛下の黒髪に顔を埋める。


 めちゃくちゃいい匂いするじゃん。


「おい、キヨ」


 ぐいっと無理やり首の向きを変更され、変な音をさせた右の首筋を撫でながら説明を始めた。その間にお茶の用意が整えられていく。ウルスラって、指先の仕草がいちいち綺麗だな。洗練されてるっていうか、お手本みたいな感じだった。


「前に使ったからわかるけど、魔法陣って両側に必要だよね。あの方法は安全だけど、先に誰かが反対側……今回の場合は北の国に対の魔法陣を持っていかなきゃ使えない」


 中央の国から北の国に飛ぶなら、互いに同じ魔法陣を持っていなければならない。対の魔法陣が呼応しているから、行き先を間違わずに転移できるのだ。


「軍を動かすならそれでいいと思う。多くの人が使う時は、人によってイメージが違うと危ないし」


 簡単に説明するのが難しいけど、あれだ。異世界チートな知識によれば、人や物のイメージで転移ができるはずだった。


「オレだけ単独で転移する場合、きちんと到着地点のイメージがあれば、魔法で転移が出来る」


 たぶん……その単語は飲み込んでおく。口にしたが最後、試す許可が出ない気がした。正直なところ、まだ実行してないんだ。テストしてないから言い切れないが、理屈はそれでいいはず。


 オレの魔法は、イメージ通りに発現してきた。前世界で観たファンタジー映画の映像を浮かべて、こうなれと命じる感じだ。初めてのかまど作りもそうだった。大まかな形を思い浮かべて魔力を流しただけ。それで実際に立派な土のかまどが出来たなら、転移も同じ原理で行ける。


「あとでやって見せるよ」


 この説明は後に回そうと肩を竦めて流そうとしたが、食いついたのはヴィヴィアンだった。


「今、見せてくださいませ。すごく興味がありますわ。陛下もそうでしょう? お兄様も!」


 ワクワクしてますと顔に書いて待つお嬢様に、リアムも大きく頷いた。


「キヨなら絶対に出来る。いつも私を助けてくれるから……」


 未来の奥様の期待の眼差しに、にっこり笑って「隣の部屋から転移してみせるよ」と約束しつつ、内心で「ぶっつけ本番かよ」と冷や汗をかいたことは表に出せない秘密である。

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