43.結界が規格外で想定外らしい(2)

「悪い、助かった」


 自分が甘いと思い知らされた。そうだ、生きようと思うのは誰でも同じで、仲間や家族の元へ帰りたいのも同じだ。そのために卑怯でも手段を選ばず敵を倒す必要があるのに……オレは躊躇った。すでに手は血塗れのくせに、殺さないで済むならなんて綺麗ごとを願う。


 サバゲーとは違う。戦争ごっこじゃない。油断したら自分が死ぬ戦場なのだ。それは嫌だった。死んだら二度とリアムに会えないし、彼女を悲しませる。強く拳を握った。


「……次はない」


『そうしてくれ』


 守護者を自認するヒジリの声に、自嘲の笑みが浮かんだ。


「キヨ、無事か!?」


「ボスなんだから飛び出すなよ」


 ジャックとジークムンドが走ってくる。どちらも強面だが優秀な傭兵だ。どうやら他の連中も周囲を警戒しながら近づいているらしい。魔力感知で動きを確かめながら、駆けつけた2人が乱暴に頭を撫でるのを許した。


 ぐらぐらするくらい強い力で撫で回されるのは、それだけ心配させた証拠だ。


「ごめん、つい走っちゃった」


「ケガはしていないか?」


 追いついたノアが手足を確認してから、取り出したタオルで頬を拭いてくれる。さきほどヒジリが倒した奴の血だろう。


「ありがと。オレにケガはないんだ」


 足元の死体に止めを差して確認した連中も合流して、やっと作戦終了っぽい。上を見ると、日が傾いてきていた。思っていたより時間が経過している。


「どうしようか。合図がないけど、帰っていいのかな……」


 うーんと唸る。当初の作戦だとこっちが囮となって守備兵を引き付け、レイルが調べた地下通路を使ってシフェル達が忍び込む。城を落としたら合図が来るはずだったんだけど?


 合図がないならオレ達も攻め込んだ方がいいかも知れないし、邪魔するなと言われる可能性もある。判断が難しいので、ひとまず休憩を取ることにした。敵もないのに、緊張して立ち尽くす意味はない。


「よし、合図があるまで休憩」


 司令官役のオレの号令で、思い思いに休憩する。ライアンは木の枝に座ってるし、ノアはお茶の支度、ジャックはシートを敷いて平らな場所を確保した。手招きされてジャックの隣に行くと、ヒジリが丸くなって寝転ぶ。慣れた毛皮に寄りかかった。


「お茶だ」


「ありがとう、ノア」


 ジークムンドもちゃっかりシートに便乗している。保存食やらお茶やら、意外と豪華な休憩になった。慣れてきた干し肉を齧りながら、ヒジリにも差し出す。相変わらず手ごと食べられる。骨を砕く痛みに慣れる日が来るなんて……過去のオレに『この獣は持ち帰るな』と教えてやりたい。

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