43.結界が規格外で想定外らしい(3)

「ところで聞きたいんだけど、結界で銃弾は防げないのか?」


「「「はあ?」」」


 今更何を初歩的なことを聞くんだ。そんなニュアンスの非難を込めた声が響く。敵地だがすでに制圧が終了した場だからか、彼らは声をひそめなかった。


 周囲の注目がこちらに集まる。すっごい居心地悪いんですけど。


「防げるわけないだろ」


「そんな便利な使い方ができたら、全員結界を張ってる」


「ボスらしいな」


 口々に答えた男達は苦笑いして顔を見合わせた。


『主殿の結界は銃弾を防いだぞ』


 バカにされていると勘違いしたヒジリが、ぽろっと秘密を漏らした。何てことするんだ、オレが規格外だと呆れたのはお前だろ。慌ててヒジリの口を押さえるが、ときすでに遅し。


 凝視する彼らの目が「あり得ない、規格外だ」と雄弁に物語っていた。


「えっと……」


「防いだ、のか?」


「どうやって!」


「結界に何か特殊な効果が?!」


 滅茶苦茶食いつかれて、腰が引ける。


「試しに張るから、確認してくれる?」


 妥協案を提示すれば、彼らは大きく頷いた。いつの間にか人が集まっており、休憩を指示したのに見学会が始まってしまう。仕方なくさきほどの結界を張ってみせた。ぺたぺた触るジャックが首をかしげる。


「身体の形に添わせたのか」


 前に勉強した際に聞いた結界は、大きな魔力を持つ魔術師などが部隊全体に張るものだ。大きなシャボン玉を作って皆を取り込む形が近い。個々を包む結界は考えたこともなくて、この形も検討すらされていない可能性が高かった。


 彼らにとって未知の結界を、魔法に詳しい連中を中心に撫で回している。


 外から見るといかがわしい状況じゃないだろうか。遠い目で現実逃避しながら、じっと立つオレは言われるままに手足を動かす。結界が身体を包んで動き、あまつさえ物理的に腕を掴めるほど密着している状況が不思議らしい。


 彼らの知る結界が部隊を守る覆いのイメージだとしたら、オレの結界は防護服のイメージだ。合羽も近いかも知れない。とにかく身体の外を膜状で覆って動きについてくる形だった。こっちの世界の常識では、この形が結界に応用できると考えなかったようだ。想定外ってやつか。


「すごいな……それ以前に強度を試したいが……」


 ジークムンドが口ごもる。当然だが結界の強度を試すなら銃で撃ってみるしかなかった。しかし上官でありボスであるオレに「撃ってもいいか」と聞くわけに行かない。


「強度試すなら、木とかに張ってもいいけど」


「「「「できるのか!?」」」」


 すさまじい食いつき具合に、引きつった笑みで頷いた。

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