85.街で知った現実(3)
『主ぃ、ひどい』
「酷くない。昼飯くれただけでも感謝しろ」
オレと青猫の言い争いに慣れた傭兵は「またか」と生温い目で流すが、斜め後ろにいた北の王太子以下捕虜の皆さんはドン引きだった。仮にも聖獣である青猫に対し、オレの態度があまりに酷いと思ったのだろう。
だが安心して欲しい。猫は自分を中心に世界を回す身勝手な生き物だ。この程度の塩対応でめげるメンタルは持ち合わせていなかった。
『主、膝の上で飼い猫したい』
「飼い猫? ヒジリで足りてる。だいたい食べる以外に役立ってないじゃん」
アニメの話題も思ったほど食いついてこなかったし。とくにロボットアニメ主人公のセリフは、もうお約束で義務だと思うわけだ。殴られた頬、せっかくのチャンスをスルーした時点で、オレの聖獣ランキング最下位だからな。
『ふふん、さすがは我が主殿よ』
得意げなヒジリは、聖獣ランキング最上位だ。なにしろイケメンすぎる。黒い毛並み、乗れる大きさ、土魔法の使い勝手の良さはもちろん、彼はオレをちゃんと立ててくれるからな。噛んだり齧ったりしないともっといいが、誰しも欠点のひとつやふたつあるもんだし、治してくれるから許す。
「もふもふ枠はヒジリで決まり」
がやがやしている間に街が見えてきた。かなり大きな門があり、ぐるりと街を囲む立派な塀が立っている。それこそ巨人による進撃を防げるくらいの、立派な壁だった。
「随分高い壁だな」
「北の国とのにらみ合いが長かったせいだろう」
「奥の森にすむ魔獣や魔物の侵入を防ぐ意味もある」
へぇ~。感心しながら城門へ近づくと、そこで停止を求められた。自分勝手に座って休憩を始める傭兵達を見る門番の目が気に入らない。
「キヨ殿か?
「……他の奴は?」
嫌な予感がした。そして、こういう予感は的中するためにある。蔑むような眼差しがジャック達に向けられるのに、オレには嫌に丁寧に接してきた。すごく感じが悪い。傭兵は孤児が多いと聞いたレイルの話を思い出した。
中世の頃のイメージに近い世界だから、きっと孤児は『邪魔者扱い』なんだろう。街を汚い恰好でうろついて、物乞いしたりスリ行為で金を稼いだり、中には身体を売る奴だっているかも知れない。街の治安を乱す存在だって認識は否定しないが、だったらきちんと保護すべきだ。
保護されれば教育を受けられる。衣食住が保証されれば盗みもしないし、小ぎれいな恰好してたら店にも入れて、アルバイト……仕事だって探せるはずだった。好きでやる奴は別だけど、食うために身体を売るなんて可哀想な子供がいるのは、買う汚い大人がいるからだ。
何も与えないくせに、孤児を見下す権利なんて誰にもない。『こいつらはいつもそうだ』ひねたレイルの声が聞こえる気がした。そうか、いつも街の中でこんな目にあってきたのか……。
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