85.街で知った現実(2)

 ちなみに一度洗わずに収納して取り出したら、汚れた鍋がそのまま出てきたので、オレが知ってるラノベとチートと現実の間には、深いマリアナ海溝があるようだ。


『主殿』


 当然のように待っているヒジリに跨った。くじいた足はさほど腫れていないが、自分で歩かないから悪化してないだけだろう。また捕まって首根っこ掴まれるのも嫌なので、素直にヒジリにしがみ付いた。欠伸をひとつするが、その間に傭兵連中は歩き出す。


 相変わらず「整列? 何それ、おいしいの」状態で好き勝手に分散している。警戒もしっかりしてるし、逸れたら自己責任で処理してもらうとして、一緒に歩いている捕虜に首を傾げた。


「ねえ、捕虜の管轄って傭兵なの?」


「いや。正規兵だな」


 銃の手入れをしながら歩くジャックが答えてくれる。ノアはオレの乱れた髪を櫛で梳かしながらついてくる。ライフルを磨くライアン、サシャも半月刀やナイフの状態をチェックしている最中だった。みんな、器用だな。


 ちょっと真似してみたくなってナイフを出したら、横からジャックに取られた。


「キヨ、手を切ったらどうするんだ」


「え……オレだけダメなの?」


 なぜかサシャとライアンも頷く。見えないが髪を梳かすノアも頷いている気がした。オレはどれだけ不器用だと思われてるんだろう……orz


「話を戻すけど、なんで今回は捕虜がうちの管理なのさ」


「うちが捕まえたからだな」


「……ルールがよくわかんない」


 ぼやいたオレに強面連中が笑い出した。ジャックの説明を整理すると、基本的に捕虜は回収部隊が居て、渡して終わりらしい。回収部隊が手いっぱいな状況で、捕らえた傭兵部隊の兵力が高いので国に戻るまでの管理を請け負った、と。


「わかったけど、いつ管理任されたの?」


「……聞いてなかったのか」


「誰も言わなかったじゃん」


 指揮官のオレが知らない命令で管理任されても困るんだけど? 請け負ってないし、オレ。唇を尖らせて文句を言う子供に、周囲がざわついた後で状況の確認が始まった。その間も列は前に進み、森を出て平原になる。


 ひざ丈くらいの草が風に揺れる風景は、麦畑や稲穂の光景に似ていた。実際は雑草の群れだけど、視界が開けたことで気持ちが軽くなる。深呼吸したオレの膝に、ブラウが飛び出してきた。太陽を浴びるチャンスとばかり、小さな猫サイズで膝で丸くなる。


 膝の上の青猫をそっと抱き上げ、ぽいっと足元へ投げ捨てた。今まで涼しい影の中で楽してたくせに、調子よく日向ぼっこなど許すものか! オレは心が狭いんだ。ヒジリも唸ってたから丁度いい。


 歩くヒジリがわざわざ後ろ足でブラウを蹴飛ばした。

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