267.サプライズも悪くない(1)

 ウルスラと相談するシフェルに、心配性のシンが着いて行った。手を振って見送り、オレはリアムの方へ向かう。明日の裁判は意外と早くて9時からだった。証拠集めとか間に合うだろうか。


 向こうが何を言い出すか、想定問答集を作るウルスラは徹夜かもね。女性の寝不足は良くないぞ、でもリアムのために頑張ってくれ。矛盾した思いで、ウルスラに手を合わせておく。


 辿り着いたリアムの部屋の前には、今まで見たこともない数の騎士が立っていた。手前に詰め所が作れそうな人数だ。眉をひそめる。おかしいな、何かあったら困るというより、何か起きたから警戒しているように見えた。その辺の事情はリアム自身に尋ねよう。


「誰だ」


「キヨヒト・リラエル・エミリアス・ラ・シュタインフェルト」


 まだ北の王家だからシュタインフェルトだったよな? あれ、どこか抜けてる気がする。でも聞いた方だって分からないだろ。しかも近々名前が変わるんだっけ。ちゃんとメモして持ち歩くことを決意した。


「キヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・シュタインフェルト殿下であらせられます。皇帝陛下へのお取り次ぎを」


 後ろにさっと現れたじいやが訂正する。あれだ「セイ」が抜けてた? 自分の名前間違えるとか恥ずかしいんだけど、でも当然みたいな顔で頷く。騎士は敬礼した後、ノックして顔を見せた侍女と何やら話した。それから見覚えのある侍女さんが出てくる。


「お待ちしておりました。皇帝陛下がお呼びです、こちらへどうぞ」


「じいやもいい?」


「エミリアス侯爵キヨヒト様の侍従でいらっしゃいますか」


「うん、執事のタカミヤ」


「ご一緒にどうぞ」


 この辺は記録に残すための、公式のやり取りだ。入室した人の記録を取る近衛騎士に聞かせるのが目的だった。


 今の時点では同性のお友達扱いだが、この後婚約を発表すれば、リアムの立場は未婚のご令嬢となる。いくらオレが婚約者でも、婚約発表前に未婚の男女が同室はまずいのだ。ここでオレが執事を伴い、リアムの侍女が同席したという記録は醜聞を防ぐ。しかも後にリアムの身を守る切り札だった。


 開いた扉から入り、じいやを紹介した。リアムは長椅子に座るが、いつもの皇帝服のままだ。公式行事が終わったのに、どうして着替えなかったんだろう。


「皇帝陛下にはご機嫌麗しく……」


「たった今、悪くなった」


 ムッとした口調で唇を尖らせる可愛い黒髪美人に、くすくす笑いながら謝った。


「ごめん、形式だからね。でも……そうだな。ただいま、リアム」

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